第21話 雨乞い

 その鍵は澄んだ空色をしていた。空の鍵穴に合わせて回すと、扉が開いて雨が降ると言う。けれど鍵穴を探して空にかざすと、晴天に溶けて見えなくなった。

「鍵穴が分からない」

 ため息まじりに言うと、姉は笑って貸してと手を出した。掌の上ではくっきり見えるのに、不思議に思う。

 姉は腕を伸ばし、見えない鍵をつまんだ指先を空のあちこちさまよわせる。それが急に止まり、空からカチリと音がした。

「雲が来る前に触ってみて。開けすぎないように」

 姉に導かれ背伸びして手を伸ばすと、指先に冷たい鍵が、その先に鍵穴らしき凹凸が触れた。

「来年からは、あなたが全部やるんだから」

 どきどきして何度も鍵穴をなぞる。西から厚い雲が流れて来た。


Twitter300字ss企画 第65回 お題「鍵」

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