第6話 霧の精に出会ったはなし

 山で霧に飲まれたら死ぬと思っていた。


「そっちじゃないよ、こっち」

 小さな子が私の手を引く。私はそれを振り払う。

「どうせ帰れない道でしょ」

「違うよ。話を聞かない人だな」

 自ら霧の精だと名乗るその子は、その割に現代的なレインウェアを着ていた。霧でも目立つ蛍光色が眩しい。

「良い精霊は、迷い人は帰すよ。何でそんなに人を信じないの」

「君人じゃないんでしょ」

 人を信じられないから一人で山に来たのだ。その答えを飲み込むと、その子は静かに微笑んだ。

「大丈夫だよ、優しい人の子。帰りなさい。霧の時は、僕が導いてあげるから」

 そう言い私の背を軽く押す。弱い力なのに私は転び、顔を上げると霧は晴れていた。

 死ねなかった。

 私は泣きながら優しい霧を思った。


Twitter300字ss企画 第48回 お題「霧」

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