第一章 漠野の城(二)
春明が子怜の旅の
その日の早朝、春明は
墨の匂いすらただよってきそうな姓名の列。それは
合格者の歓声、落第者の悲嘆、彼らを称え、あるいは慰める家族や朋友たち、さらに野次馬も加わって、あたりは大変な騒ぎだった。
それらすべてが、春明の耳にはひどく遠かった。朝日をあびて誇らしげにかがやく姓名の中に、春明の名はなかった。
「――ねえ、きみ」
とん、と背中をたたかれた。ぼんやりとふりむいた春明は、そこでぽかんと口をあけた。
そこに立っていたのは、すっきりと品のいい身なりの青年だった。年の頃は二十歳手前といったところか。背丈は春明よりやや低く、全体的に華奢な体つきだ。もちろん初対面であるが、春明が驚いたのは、見ず知らずの相手に声をかけられたからではなく、その青年が目もさめるような端麗な容貌の持ち主だったからである。
「突然すまないねえ」
愛想よく笑いかけられて、春明はかっと頬が熱くなるのを感じた。ほこりっぽい往来で、その青年のまわりだけ淡い光につつまれているかのようだ。道行く人々も、美麗な青年の姿に足を止め、次に無遠慮な視線を春明になげかけてくる。このいかにも田舎くさい少年と、こちらの洗練された美貌の主はいったいどういう関係なのかと。
通行人にじろじろと見つめられて、ようやく春明は我に返った。
「……あの、なにか」
おそるおそる尋ねると、青年は「うん、あのね」と、無邪気な笑みを浮かべつつ、さらりと剣呑な台詞を口にした。
「ちょっと顔かしてもらえるかなあ」
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