みえないもの

水原緋色

第1話


「お姉ちゃん。ボクなにか大事な約束を忘れてる気がするんだぁ。なんだと思う?」


耳をつんざくようなセミの鳴き声に紛れて、まだ幼い弟が突然キョトンと首を傾げ難しそうな顔をする。私もしばらく弟と同じように首をかしげる。

弟がパッと顔を輝かせる。ダメだ、と脳裏で誰かがささやいたような声がした。そして私は思い出す。


「ヒロ、大丈夫。もう終わったよ」


弟が何か言う前に、セミに負けないような大声で。忘れてくれと願って。


『邪魔しやがって』


後ろを振り向く。何もいない。それでも弟を抱きしめ、虚空を睨む。もう間違えないと決めたのだ。


「渡さない、絶対に」


視線の先に朱色の鳥居をとらえ、小さな声でお礼を告げる。



狐のお面の少年に。

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みえないもの 水原緋色 @hiro_mizuhara

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