六話 赤い夕陽に照らされて

 日も傾き、三人はテントに戻り残りの三人と合流した。

 テントではゲンブが日傘の下でぐでっと寝転がり、ビャッコがうちわであおいでいるところだった。


「ゲンブはどうしたんだ?」

「暑すぎるって言ってそのまま倒れちゃったから、水ぶっかけて扇いでやってるのさ」

「ならせめてその開いたままの足を閉じてやるとか腕をまっすぐにしてやるとかさ、してあげてもいいんじゃないかな?」

「別にお前が変な気を起こさなきゃ大丈夫だろって思ってそのままにしておいた。何なら写真でも撮るか?」


 ニシシと笑いながらビャッコはかばんからデジタルカメラを取り出す。

 一体そのかばんの中には何が入っているのか、四次元ポケットかというぐらいいろいろ出てくる。


「なんとなくゲンブの威厳のためにやめといてさしあげろ…っと、それよりもうすぐ撤収の時間だから着替えてこい、早く着替えてくればいいものが見られるぞ」

「おーもう終わりか、久しぶりにはしゃいだら少し疲れたわい…」


 肩を回し伸びをするスザク。スザクは特にはしゃぎまわっていた様子だったしこの中でも一番疲れてるのだろう、着替えを持って更衣室に向かった

 それに続いてセイリュウとオイナリサマも着替えに向かった。


「ほらゲンブもおきて、いつもの服じゃ暑いだろうから着替え別の用意したぞ、それに着替えてくれ」

「ぬあ、なに?お前が用意した着替えだと?早く渡せすぐ着替える」

「お、おぉ、起きるの早いな…それじゃちゃちゃっと着替えてこい。ビャッコはそのままでも大丈夫なのか?」

「あぁ、もともとこれで来てるからな、テント片付けるんだろ?また手伝ってやるよ」


 そして来た時と真逆の手順でテントとブルーシートを片付けて行く。

 組み立てるときよりも片付けるときのほうが手際よく進み、最初よりも手早く済んだ。

 砂で汚れないようにコンクリートの階段に荷物を置き、着替えてる組の帰りを待つト同時に教えてもらった場所を再確認する。



 しばらくするとゲンブが足早に帰ってきた。


「ん、ゲンブ帰ってくるの早いな」

「着替えるのがちょっと面倒くさそうな服だったから時間かかっちゃうかなと思ってたんだが、まさか一番に帰って来るとは」

「いやぁ遅くなってすまない、少々着替えるのに手間取った」


 ゲンブは水色のTシャツに薄いピンクのレースの装飾がついた斜めスカートでいつもの厚手の服装と正反対の部類の服装で印象がガラッと変わっている。


「と言いながらも一番目なんですが、まぁいいか。それ似合ってるな」

「本当か!お前の選んだ服はサイズもちょうどだし何より我の好みに合っている。なかなかできるでないか」

「お褒めにあずかり光栄です、我ながら良い服を選んだと思うよ」

「自画自賛…でも似合ってることはたしかだな」

「うむ、この服は一生着ていてもやぶさかじゃない!何よりお前が選んだ服だからな、大事にしよう」

「あ、ありがとう…そこまで喜んでもらえるとは思ってなかったよ、でもこの旅行中それ着てたいならホテルで寝るときは別のを着ろよ?しわしわになったらだめだから」

「わかっている、宿内では浴衣とやらを着ると宿の者から聞いておる、そこは安心せぇ」


 先ほど海ではしゃいでた時よりもハイテンションなゲンブに少し驚きつつもその可愛さに少しだけ見惚れる。


「あいつらは我より服装楽なのに着替えるの遅いな」

「まぁまだ時間は大丈夫だからもうちょいでもいいが…」


 そう言ってると三人が同時に帰ってきた。


「あらゲンブ早いわね…って何その服装」

「ふふふーどうだ!似合っているだろう!」

「えぇ、いつもの暑苦しそうな服より涼しそうでいいですね」

「だろう?やはりこやつの感性は間違ってないのだ」

「はいはい、べた褒めはそのぐらいに、ちょっと海を見てみろ」

「ん?海?」


 その言葉に全員が振り返るとその視線の先に堤防の先にある岩に夕日が重なりまるで海から光の矢が出ているように見えた。


「言ってた通りとてもきれいですね」

「うむ、あの家だとこんな景色は絶対に見ることはできぬじゃろうな」

「赤に染まる海もまたいいわね」

「昼にもここから海を見たけど、それとは違う景色もみれて、二度おいしいとはこのことだな」

「食べ物みたいに言うのはどうかと思うが…ま、あながち間違ってはないか」


 五人の神はそれぞれ一言感想をつぶやきその景色に見とれていた。

 自分もまたその景色のきれいさに飲み込まれていた。




 数分経つと日は完全に沈み空も暗くなり始めた


「そろそろ戻るか、全員荷物は持ってるな」

「楽しい時間はすぐ過ぎるのだな…」

「まだ明日も明後日も面白いと思えることを考えてるから」

「今日のことを考えると明日も期待してもいいかもな」


 海にいた六人は暗くなり始めた海を背にホテルへと戻っていった。




   #




 ホテルに戻ると受付で「お風呂の準備ができました」ということなので一行は夕食の前に温泉に入ることにした。

 自分も一人ゆっくり入ろうと思ったのだが、今回貸し切りで六人中一人しか男性客がいないので男風呂が開いてないらしい。それでこのホテルに泊まっている間は女風呂が混浴ということになってしまった。

 なので女性(アニマルガール)である五人を先に入らせ、そのあとに一人で入るということになった。

 海に入った後、自然乾燥で着替えないで帰ってきてしまったため早く入りたかったが仕方のないことである。


「それじゃあ全員出たら教えてくれ。できれば気持ちはやめに出てくれると助かる」


 そう言って唯一の男である自分は一度部屋に戻った。


(こうなると夕食までは時間があるし、一応彼女らが出てきたときにこっちに伝えられないってのもあるから部屋に居なきゃなんだけど、何もすることがなくて暇になるな)


 いつもなら忙しすぎて暇な時間なんてないから、こういったときに何をすればいいかわからなく手持ち無沙汰になってしまう。

 とりあえず明日の予定でも確認しておこうとかばんの中にある端末を開きスケジュール帳アプリを開く。

 そういえばパークを一時的だが代わりにやってくれてるあいつはうまくやってるのだろうかと少し気になったが、あいつのことなら大丈夫だろうとすぐ別のことに気を向けた。


 数十分後、ドアをノックする音とセイリュウの声で「全員出たから入っていい

 わよ」という通達があった。

 やっとか、と風呂に使うタオルと着替えである浴衣を持って大浴場にむかった。


(そういえば温泉も久々だなぁ、個々の温泉は露天もあって景色がきれいらしいし楽しみだ)


 久しぶりの温泉にワクワクしながら浴場のドアを開け、様子を確認する。

 そこには先ほどまでいた海と綺麗な星空の景色といるはずのないある者の影があった。


「え!?もういらっしゃっっちゃったんですか!?」


 そこにいたのは白い長髪と白い大きな耳と尻尾、そしてタオルも巻いていない裸体をあらわにしたオイナリサマが立っていた。

 お互い居るはずも無い者がいる光景に何もできずに固まってしまった。


「えっと、セイリュウにもうみんな出たと聞いたんだが…?」

「まだ私は入ってるって伝えたはずなんですが…?」


 セイリュウ、謀ったな…


「と、とりあえず隠しましょうか、お互い…」

「そ、そうですね!私は湯船につかっているので、気にしないで体とか洗っちゃってください!」


 どちらも恥ずかしさのあまり会話がたどたどしくなる。

 とりあえず落ち着いて、オイナリサマに言われた通りシャワーのほうに向かう。

 しかししっかりとみてしまったオイナリサマの姿が脳裏に残ってしまい全く落ち着けなかった。

 オイナリサマが出れるようゆっくり洗うつもりだったが落ち着こう落ち着こうと考えてるうちに高速で全身を洗ってしまい、オイナリサマにどうするか聞くしか手がなくなってしまった。


「あの…オイナリサマ?あとどれくらいお風呂に入ってたいでしょうか?」

「え!?あ、その、もうちょっと入ってたいかなぁ、なんて…」

「じゃ、じゃあおれこのまま出たほうがいいかな、オイナリサマはゆっくり入ってもらっていいから…」

「なら、あなたも一緒に入りますか?」

「…はぁ!?」


 オイナリサマの急な提案に突拍子のない声をあげてしまった。


「いや、オイナリサマはいいのか?」

「えぇ、見られてしまったのはしょうがないですし、私も見てしまいましたから…いっそのこと一緒に入ってしまってもいいんじゃないかって」

「オイナリサマがそれでいいならいいんだろうけど…ほんとにいいのか?」

「大丈夫…です、いずれこんな風に一緒に入ることがあると思ってたので、それが早くなったと思えば…」

「…?えっと、じゃあお言葉に甘えて入らせていただきます…」


 恐る恐るオイナリサマが入ってる浴槽に足を入れる。

 オイナリサマの言ったことに少し引っかかりを覚えかが心当たりがない。というか今日は何か引っかかるようなことを他でも聞いたような…。

 そんな風に考えてるとオイナリサマが話しかけてきた。


「今日は移動やらなんやらお疲れさまでした」

「いやいや、俺が勝手に企画したことだからな、みんなに楽しんでもらえるならこれぐらい平気さ」

「そうですか…でも疲れたらちゃんと休んでくださいね?いつもジャパリパークの園長としていろいろとお忙しそうですし…」

「そこもアニマルガールたちやお客さんが楽しんでくれてるのを見ればなんともおもわないさ。むしろ元気になるぐらいだね」

「でもちょっとだけ心配です。何かあったら私たちにも頼っていいんですからね?あなたが倒れてしまっては、悲しいです」


 そう言って彼女は腕をつかみ彼の体を引き寄せた。そして引き寄せた腕を絡ませ抱き着いたのだ。

 双方裸で、何もお互いを遮るものがないため、触れる彼女の肌の感触がじかに触れる。

 腕を引き抜こうとしても彼女は離さず、真剣なまなざしでこちらを見据える。


「オイナリサマ…ありがとう、心配してくれてる気持ちは十分わかった。だけど大丈夫。今は自分の力でパークをもっとよくしていきたいんだ。それの代わりとは何だけど、四神たちの世話とかよろしく頼む」

「あ、はい…」


 オイナリサマはおもむろに腕をほどき、浴槽から立ち上がって尻尾に乗った水を流しタオルもせず浴場の出口に向かっていった。

 その途中一度立ち止まり何かつぶやいたようにも見えたが、とても小さな声だったのか、その言葉を聞くことはできなかった。

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