五話 ファイヤー&ウォーター

 セイリュウとひと悶着あった二人だったが、気を取り直してゲンブ、スザク、オイナリサマの輪に加わった。


「お、やっときたか、おぬしら準備が長いぞ?」

「すいませんでした~っと、どうだ?初めての海の心地は」

「うむ、これはいいな。そもそも我は北の雪山に居た身、海の良さを初めて知った」

「北と言えばすごい寒いところじゃよな?よくそんなところに居られるよな」

「逆にお前もこの暑さに耐えられるんだ…確かのお前が熱源だから自分では感じないだけかもだが」

「はいはい喧嘩しない喧嘩しない、険悪な雰囲気になったらこの水鉄砲で応戦するからなあ~」


 そうして水鉄砲も見せると二人の目がきらりと光った。


「ほう、我に戦いを挑むなど、いい度胸してるの」

「ふふふ、わしらにかなうかな?」

「ヒトだってやればできるんだからな、負けないからな」


 急遽三つ巴が始まろうとしていたが、セイリュウはあきれた目で見ていた。


「この子たちのペースにはついていけないわね。オイナリ、あっちの岩場で少し話さない?」

「いいですね、でもこの人残しても大丈夫ですかね?二人と戦ってケガでもしないといいですけど…」

「まあたぶん大丈夫よ、自分から割り込んで行ったしこの人不死身説あるから」

「なら大丈夫ですね、それじゃあ行きましょうか」


 そして戦いに巻きもまれないようにという理由も含め、オイナリサマとセイリュウはその場を離れていった




   #




 そのころ残った三人はスザクが砂浜に、ゲンブと園長は海の中に立ちお互い見合っていた。


「スザク!お前の特性は火だったよな!それなら水に触れ続けたら弱体化するだろ!」

「ふっ!こんな水など業火ですべて蒸発させてやるわい!」

「蒸発する前にぶつければダメージはあるはず!人の英知(おもちゃ)の力、見せてやる!」


 お互いにいらない叫び声とともに戦いの火ぶたが落とされた。

 まず最初に先手を打ったのは園長の水鉄砲だった


「とりあえずくらえー!」

「おっと、それは食らわんぞ」


 スザクにめがけて飛んだ水の攻撃はスザクが出した炎で消えてしまった。


「ただの火だったら水が効くかもしれぬが、わしの業火の前では無意味なのじゃ」

「くっ…一発でダメなら何発でも打ち込むまでだ!」

「どっかできいたことあるセリフじゃな…まぁいい何度やっても同じことじゃ!」

「そっちに気を取られて後ろがお留守だぞ、バケツ一杯の水お見舞いしてやろう」

「なっ、いつの間に後ろに」


 水鉄砲の水に対処していたスザクの後ろからバケツをを持ったゲンブが忍び寄っていた。

 無防備のスザクにバケツにはいった水が襲った。


「うわっ!ゲンブやったな…ってしょっぱ!なんじゃこりゃ、ペッペッ…」

「おわ!?だいじょうぶか?海の水をかけただけなんだが…」


 ゲンブがぶっかけた水はただの水ではなく海水だったのである。

 海水が塩辛いということをスザクもゲンブも知らないということをすっかり忘れていた。


「な、なんで水がしょっぱいんじゃ!」

「あー海水は塩辛いんだよなぁ」

「そういう大事なことは最初に言ってくれんかの!」

「そこが海の面白いことなんだよね~」


 塩辛さで悶絶するスザクに飲み物を渡すためいったんビャッコのいるテントに戻った。


「おろ、楽しそうに遊んでたのにどうしたんだい?」

「海水を飲んじゃってのどが渇いちゃうからいったん飲み物を飲ませようと思って」

「はいよっとみずでいいよな」

「ん、さんきゅ」


 ビャッコからペットボトルを受け取りスザクに分ける。


「いやぁいきかえるのぉ…」

「いったいどうしたんだ?」

「海って塩水みたいに塩辛いなんて初めて知ったのじゃ…」

「あははは!お前が海に行きたいって言ってたのに海の子と調べてなかったのかい?」

「ぐぬぬ…そ、それもそうじゃな…別のことを気にしすぎて考えてなかった」

「ん?べつのこと?」

「い、いやなんでもない!」

「?」


 ビャッコとスザクが話している間で少し気になる発言があったが特に気にすることはなかった。




   #




「あの子たち楽しそうね」


 遠くでことの終始を見ていたセイリュウとオイナリサマはスザクを抱えてテントに戻っていった彼らを見て苦笑していた。


「幸運にも誰も怪我はしてい無い様ですし、一応安心ですね」

「一人海水をかけられて悶絶してる鳥は居るけどね」

「海水がしょっぱいってこと知らなかったっぽいですし、少しかわいそうと思いますけどね」


 スザクの苦しそうな顔に慈悲の念を送り会話に戻る。


「それにしても本当に暑いですね…私も海に入ろうかしら。でも髪が海水に濡れるとあとで手入れが大変なんですよね…」

「貴女の髪って長いから手入れが大変そうよね」

「えぇ…だから髪を洗うのに時間がかかっちゃって長風呂になっちゃうんです。でもセイリュウさんだってその大きな尻尾の手入れは大変そうですよね」

「そうね、この尻尾は私の誇りだから、きっちり手入れしてるわよ。ただあの家の風呂は狭いから寝る前にするけどね」

「へぇ、私もセイリュウさんほどじゃないですけど尻尾大きいですからお気持ちわかります」

「まぁ鱗と毛皮じゃ少し違うところもあるからね。正直毛皮のほうが大変でしょう?毛並みも整えなきゃだし」

「確かにそうかもですね、どちらにせよ大きいって少し大変ですよね」

「それは一理あるわね…ってあら?」


 手入れの話をしているとさっきまでテントのほうにいた園長がこちらに向かってるのが見えた。


「あの子たちとの勝負はもういいの?」

「今はビャッコに任せてる、テントに戻った時二人がここにいるのが見えたから来てみた」

「特に面白い話はしてなかったわよ?あなたには尻尾も大きなものもないものね」

「大きなものがないってなんだ?まぁあえてこれ以上は聞かないでおくが…そんなことより、二人は泳がないのか?」

「んーさっきも話してたんですけど、手入れが大変になっちゃうので潮風に吹かれるだけで」

「私も今は別にいいわ。また後で海には来そうな予感がするし」

「でも今回の旅行で海に行くのは今日だけだぞ?」

「そこは気にしなくていいわよ、私が今のままで楽しいって思えばそれでいいでしょう?」

「まぁ、楽しければそれでいいけど…いや明日からも楽しいことあるから今一番じゃなくても大丈夫さ」



「そうだもうすぐ日も落ちるし、夕日がきれいな場所教えてもらったからいかないかい?」

「ほう、それはいいわね。あの子たちもつれていきましょうか」


 岩部に座っていた二人は立ち上がり、三人はビャッコ達三人がいるテントへ戻っていったのであった。

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