第35話 演劇部の卒業生

「ここがそうなのか?」

「うん。烏山さんに聞いた話だと、ここの大学って文学部があるし演劇サークルも複数あるんだって。実際この大学出た後で俳優になった人もいるらしい。うちの学校のOBも大学で演劇続けようって思う人はこの学校を目指すんだそうだ」


 門扉の向こうには歴史を感じさせる立派な校舎といくつもの庭木が植えられたキャンパスが見える。


 数日後、僕と明彦はとある都内の有名私立大学を訪れていた。無論、四年前にうちの学校の演劇部に所属していた人間を探して話を聞くためである。


 ただし僕らは卒業生とアポイントを取っているわけではない。というか連絡先がないから大学に来たわけで、そもそも取りようがないのだ。


「どうやって会うか、あてはあるのか?」

「とりあえず、一番人数が多いらしい演劇サークルの名前はわかっている。そこがだめなら他の演劇サークルに当たっていって、その中で名簿に載っている先輩に会えることを祈るしかない」

「なんちゅう杜撰な計画だ」


 明彦が頭を抱えた。


「それに、お前その格好は何とかならんのか。露骨に目立っているんだが」


 僕の服装はいつもと同じ天道館高校の制服だった。休みでは人がいないかもしれないし、平日の学校帰りに立ち寄ったのだから仕方がない。


 ちなみに明彦は着替えを用意していた。大学に入り込むことを意識したのか、ピチッとした窮屈そうなスキニージーンズに派手な柄の長そでシャツのうえに黒いジャケットを羽織っている。


「僕はあくまで『この大学を志望していて見学に来ましたよ』という体で入り込んだんだから別にいいんだよ。制服着ていたおかげで警備員さんにも言い分をスムーズに信じてもらえたしさ」

「まあ、確かにそうだが」


 芝生と校舎の合間を縫うように僕らはキャンパスの中を歩き回る。


「しかし、広いなあ。うちの高校なんかよりよっぽど大きいぜ。こんな大学に通いたいもんだ」

「それなら、もっと勉強しなきゃだろ。お互いに」

「今はそんなこと聞きたくない」


 のんきに見える明彦も受験勉強はやはり憂鬱らしい。顔をしかめて耳をふさいでみせた。

 

 紅葉で色とりどりの葉を散らす街路樹の向こうには図書館や講義棟とおぼしき四角い建造物が立ち並ぶ。校舎を結ぶ通路では、僕らより少し大人びた学生たちが楽しそうにサークルの飲み会やらゼミの課題やらの話で盛り上がっていた。


 経験したことのない何とも言えない自由な雰囲気に少し戸惑いながらも僕と明彦は目的の場所を探しまわった。


 やがて僕らは学生会館というサークルの部室が集まっているらしい建物にたどり着く。


「あった。ここらしい」

「じゃあ、早速入ってみるか」


 僕らは、演劇サークルの部室らしいところを案内板から探し出し、建物内の階段を上がり部屋の前までやってきた。しかし……。


「あれ」

「どうした」

「開かない。扉が開かない」

「おい。これってもしかして」


 明彦が部室の扉横の黒い角ばった機械を指さした。


「カードリーダー? そうか。ロックがかかっていて学生証か何かがないとは入れないのか」

「どうする?」

「まあ。正直そういうこともあるかなとは思っていた。誰か人が来るのを待ってから声をかけよう」

「待つのか、ずっと? いつまで?」

「もう夕方だしな。帰る時間を考えても一時間くらいが限度かなあ。交代で部室の前で人が来るのを待とうか?」


 僕と明彦が顔を見合わせて互いに眉をしかめていた、その時。


「君たち、何しているの?」


 一人の女の人が僕らの方を見ていた。年齢はおそらく二十歳になるかならないかといったところだろうか。ジーンズと黒いシャツの上によれよれのトレンチコート。ぼさぼさの長い髪に黒縁眼鏡をかけている。


「あ。す、すいません。僕たちキャンパスを見学に来た高校生で」

「ここの演劇サークルに用事があって、人とか来ないかなあって」


 僕と明彦はしどろもどろになりながら説明する。


「ふうん」


 女の人はじろじろと僕らを観察していた。


「何の用があったの?」

「ぼ、僕らの高校の演劇部にいた人がここの演劇サークルにいたら話を聞きたいな、なんて」

「君たち、天道館高校の生徒でしょう」


 びしっとポーズをつけて指さしながら女の人は言った。


「えっ。なぜそれを! お姉さんは超能力者ですか?」


 明彦もなぜかノリノリで返す。


「初歩だよ。ワトソン君。第一にさっきあなたたちは見学に来た高校生だと言っていた」

「おお!」

「第二に見学に来られる都内の高校で演劇部が活発なところと言えば、数は多くない。天道館高校を含む数校だ」

「何と!」

「第三にそこの彼の制服が天道館高校のものだ!」

「何という洞察力! 現代のホームズがここにいるというのか!」

「いや最後の説明だけで事足りるじゃねえか」と僕は呟く。


 一つ目と二つ目いらんがな。


「ということは、お姉さんももしかして天道館高校の卒業生なんですか?」

「まあ、そんなところだよ。私はあやか。アヤちゃんと呼んでくれたまえ。後輩諸君」

「アッヤちゃーん!」と明彦がアイドル親衛隊のノリで叫ぶ。

「なっはっは!」

「お前らネタ合わせでもしたのかよ」


 僕だけ会話の流れに取り残されている。


「いやあ。なんだかこのお姉さん、他人のような気がしなくって」

「それで、何を聞きたかったのかな。天道館高校のOBに話があったんでしょう?」


 僕は念のために、烏山さんから借りた名簿を確認する。確かに二年前に卒業した『北沢綺華きたざわあやか』という女子生徒がいたようだ。


「えーと。北沢さん?」

「北沢? ノンノン! アヤちゃんって言わないと返事してあげないよ」

「あーっと、じゃあ。アヤ……さん」

「何かな?」


 アヤさんはニカッと笑って見せる。


「とりあえず場所を変えましょう」


 気が付くと何人もの通行人が騒ぎ立てる僕たちのことを大道芸人でも見るような目で遠巻きに見ていたのだ。




「はい。どうぞ」


 僕たちは話をするために、ラウンジに移動しベンチに腰かけていた。アヤさんは僕たちに缶コーヒーを手渡して、向かい合うように座った。


「ありがとうございます」

「ごちになりまっす」

「それで? 元演劇部の私に聞きたい話っていうのは何かな? やっぱりアレかい? 入学したらどこの劇団に入るのがいいかとかかな? それとも男の子らしく、どこのサークルに美人が多いか、かな?」


 アヤさんは興味深いものを見る目つきで、ニコニコ笑っている。


「えっと。そのことなんですけど、実は僕たちは演劇部ではないんです」

「ほう?」

「今、僕たちの友達が演劇部に手伝いで参加しているんですけど、そこで魔女のロッカーを開けてしまって……」


 僕はアヤさんに説明した。


 友人の日野崎が演劇部のロッカーを開けて、大量に貼り付けられた奇妙な紙片をみつけたこと。


 ゲーテの戯曲の一節が引用されたその紙切れを書いた幡ヶ谷礼香という女子について調べていたこと。


 しかし結局当時のことを知っている先生にも詳しいことは教えてもらえず、これ以上首を突っこむのはやめようかと思った矢先に何者かがさらに衣装を汚してロッカーを使わせないよう嫌がらせをしたこと。


「なるほどね。幡ヶ谷礼香、か。それに四谷先生か。懐かしいな。……しかし魔女のロッカーとはね。ふうん」

「アヤさんは当時演劇部にいたんですよね。その幡ヶ谷さんが辞めた時の経緯とかご存じないですか」

「知っている。よおく知っているよ。でも……」

「でも、何です?」

「四谷先生が君たちに何も教えなかった理由もよくわかるんだ。これは言ってみれば不祥事なんだよ。当事者たちは忘れたがっている事実なんだ。それを君はあえて掘り返そうとしている。君にその覚悟はあるのかい?」


 さっきまでのおちゃらけた雰囲気とはうって変わって、アヤさんは大真面目な顔で僕を凝視する。


「あります」

「その理由は?」

「これがもう終わった昔のことだったら、僕に何の関係もない話です。だけど未だに誰かが悪意を持って、何の理由があってか僕の友達に嫌がらせをして演劇部内の雰囲気を壊したんです。誰が何のためにそんなことをしたのか、それを解決するためには当時起こったことを知るしかない」

「なるほどねえ」


 アヤさんは眼鏡の奥で目を細めた。


「いいよ。教えよう。君ならこの話を聞いたうえで何をするにせよ、人を傷つけることはしなさそうだからね」


 僕は黙ってアヤさんの言葉を待った。


 明彦も無言でコーヒーをすすりながらも耳を傾けているようだった。


「まず当時の演劇部の状況から話そう。今、演劇部員は何人いる?」

「十二、三人ですかね。たぶん」

「ずいぶん減ったもんだ。私がいた時は二十人以上はいた」

「大所帯だったんですね」


 うちの学校は一学年が三クラス、一クラスが四十人である。とはいえ、サッカー部や野球部、バスケ部などスポーツ系の部活が多いことを考えると、演劇部に二十人は大したものだ。


「うん。当時は活気があったんだろうね。各学年の綺麗な女の子の上位五人のうち三人くらいは演劇部に所属していたくらいさ。それにつられて男子も、ね」


「へえ。そりゃあ入部してみたかった」と明彦。


「その中でも幡ヶ谷さんはまあ、人気があった方かもしれないね。一年生の勧誘も兼ねた寸劇を部活紹介の時にやったら、『あの人に会いたい』って一年生が何人か入部してきたくらいだったから」

「そんな人がどうして、部を出ていくことになったんですか?」


 アヤさんはまあまあと、手のひらを見せて僕をなだめるようなしぐさをする。


「そう急かさないでよ。当時、文化祭で私たちは『眠り姫』を上演する予定だった」


 その辺は烏山さんから聞いたとおりだ。


「単にそのままやっても面白くないから、いろいろアレンジをした。原作ではお姫様が生まれたお祝いに呼ばれなかった魔女がお姫様に呪いをかけるところだが、その魔女は実は悪意があったわけではなく、貧しい民衆に重税を課している王侯貴族たちを戒めるために呪いをかけたことにした」

「へえ」

「そして眠り姫はただ眠り続けるのではなく、夢をみている中で圧政に苦しめられている人々の暮らしを見て悪い為政者を懲らしめる英雄になる、そういう冒険物語を経験する。そして王子様に目を覚ましてもらった後で自分たち貴族がしてきた行いを悔い改めるという話さ」


 また、派手に改変したものだ。


「当時、主役に抜擢されたのは幡ヶ谷さんのほかにも二人くらいいた。名前は伏せるがどちらも見目麗しいお姫様を演じるのにふさわしい外見だった。……だが、彼女たちは自ら主役の座を降りた。いや降りざるを得なくなった」

「なぜです?」

「ここからが本題だ。それは文化祭に向けて準備を進め、脚本もできて配役も決まりつつあるさなか、ある事件が起きたからなんだ」


 アヤさんは今思い出すのも苦しいというようなこわばった表情で目を伏せた。


「盗撮だ」

「え?」

「知っているだろうが、天道館高校演劇部はホール横の控室を部室兼女子更衣室として使用している。その女子更衣室で衣装に着替えている女子部員たちの姿が盗撮され、写真がインターネット上に流出したんだ」

「それは……何とも」


 僕は思いもよらない話にどう反応していいかわからず、言葉に詰まった。


 四谷先生も当時の事情を言いたがらないはずである。


「当時の衣装を担当していた部員は結構はっちゃけていてね。露出の高い衣装もあったから下着が目立つのを嫌って着替えるときに脱いでいた女子もいた。だが、その彼女は自分の姿がネット上にさらされていたことを知ったショックで泣き出し、部活を辞めた」

「その後どうなったんですか」

「写真のことは一部の部員がうちの学校関係の匿名掲示板で見つけて部内で問題になったんだ。当時の顧問は『下手に騒ぎだてして一般の生徒にも広く知られてしまったらかえってまずい。とりあえず文化祭の演劇の準備は続けて後で対策を考えるべきだ』という対応をした。その後着替えるときには、みな体を隠すようになった。そして盗撮された主役候補の女生徒たちは目立つのを嫌ってか、自ら主役を辞退したというわけだ。必然的に残った候補の幡ヶ谷さんが主演になるように思われた。……しかし」


 そうだ。烏山さんから聞いた話では、幡ヶ谷礼香は結局主役に選ばれなかったのだ。


「盗撮されたことについて、一部の生徒の保護者が知ってしまい『今すぐ盗撮の防止対策をしろ』『犯人を見つけろ』と学校側に連絡してきたんだ。そしてその直後盗撮していた犯人はわかった」


 まさか……。


「部活の最中に抜き打ちで顧問教師が全員を立ち会わせてロッカーの中を調べたんだ。するとある女生徒のロッカーからデジタルカメラが見つかった。……幡ヶ谷さんのロッカーだった」

「え? それじゃあ幡ヶ谷礼香が犯人だったってことなんですか? 本人も認めたんですか?」


 明彦が馬鹿な、といいたげに問いただす。


「本人は認めなかったよ。そのカメラも自分のものではないと主張した。でも中に入っていた画像データは盗撮されてネットに流出したものと一致した」

「そもそもインターネット上に流出したのなら、アドレスとかをたどってバラまいた人間の特定はできるんじゃあないですか」

「それをするには警察の協力が必要になるね。でも学校側は警察沙汰になればマスコミにしられて学校のイメージダウンにもつながると考えて二の足を踏んでいた。該当の掲示板そのものは数週間で削除されたしね」


 僕の質問にアヤさんは肩をすくめて答えた。明彦が僕の横でふむ、と小さくうなる。


「ま、犯人が騒ぎになることを目的としていたなら、当然ネットカフェとかの個人が特定されないパソコンを使っていただろうな。それなら犯人が身近にいると分かっている以上、盗撮の物的証拠を押さえた方が早いというのは理解できなくはないな。……だが、普通に考えて女子が女子を盗撮するかね。男がするならわかるけど」


 僕も明彦の見解に同意して頷く。


「そうだよね。だいたいカメラがロッカーから出てきたってことにしても、濡れ衣を着せるために誰かが仕込んだという可能性だってあるじゃないですか。当時の部員の人たちはみんな納得したんですか?」

「残念だが幡ヶ谷さんを犯人と考える部員が半分くらいはいた。根拠もそれなりにある」

「根拠?」

「その盗撮写真、女子部員の中で容姿の優れた子たちのほとんどが写っていたんだけど『幡ヶ谷さんだけ』は写っていなかったんだ。主役候補になったくらいなのにね」

「……なるほど」


 集団で行動しているときにある一人だけ写真に写っていなかった。それはその人が撮影者だったから、なんて話ではないだろう。


「つまり、他の候補を蹴落として自分が主役になるために写真を盗撮してバラまいた。だから幡ヶ谷さん本人が写っていなかった。そう考えたんですね」

「そういうことさね。もう一つの根拠はその写真なんだ。女子部員のほとんどが盗撮されていたわけだが、ということは部室のロッカー全体が見渡せるポジションである必要がある。そして幡ヶ谷さんが使っていた例のロッカーの位置は部室の壁側の一番端だった」

「えーと。つまり例えばこれが真ん中だったら、カメラを仕込んだカバンか何かをロッカーから出して不自然に動かさないといけない、みたいな話ですか」


 僕の言葉にアヤさんは頷く。


「うん。まあ実際のところ更衣室全体が見渡せるポジションのロッカーは幡ヶ谷さんのものだけではなく、ほかにもいくつかあったしこれについてはこじつけとも言える」

「それに、その幡ヶ谷っていう生徒は主役の座を争うだけの実力は十分あったんだろう。それなら盗撮写真をばらまくなんてリスクの高いことなんてしないんじゃあないか」


 明彦が仏頂面で言う。アヤさんはここで「ニヒヒ」と苦笑いをした。


「そうだねえ。残り半分の部員たちも同じように考えた。だけどなんにせよ、部内の信頼関係はガタガタ。分裂一歩手前といってもいい状況さ。幡ヶ谷さんとしても自分がこのまま主役になるのは良いこととは思えなかったんだろうね。辞退して代わりに魔女役を買って出た。主役には他の女生徒が抜擢された」


 では、魔女役を無理やり押し付けられたわけではなかったのか。


「そして文化祭でどうにか劇を上演し終えた後で、彼女は部活と学校を辞めた。盗撮された女子生徒の保護者から犯人に対して何も処分していないのかというクレームがあり、彼女は無理やり反省文を書かされて停学処分が下ったんだ。その処分に納得いかなかったんだろうな。停学を待たずに他の学校に転校することを希望したというわけさ」

「……彼女が学校を去る時にロッカーの中にあんなふうな悪戯をした理由って何かあるんでしょうか」

「さあね? でもこれだけは言える。彼女は今学校で起こっている演劇部での嫌がらせとは無関係だろう。少なくとも直接的にはね」

「でしょうね」

「こんな程度の話しかできないんだけど。もう良いかな」

「はい。ありがとうございました。……最後にもう一ついいですか?」

「何だい?」

「アヤさん自身は幡ヶ谷さんが盗撮をしたのかどうかについては、どう思っていたんです?」


 アヤさんはフンと鼻を鳴らして、何を聞くまでもないことを質問するのかという風情で答える。


「するわけないよ。彼女は演劇に対して真摯な人間だった。……だから部内の空気が修復不可能なまでに壊れた時点で、自分がここではもう演劇ができないと分かった時点で、もうどうでも良くなったんじゃあないかな。学校にいることも。真犯人のことも」

「そうですか」




 

 ホームに立っていた僕らの前に電車が音を立てて停車する。


 あれから僕と明彦は大学を後にして、家に向かう電車に乗り込むところだった。


 空いていた座席に座って僕らが黙り込んでいると「なあ」と隣の明彦が声をかける。


「何だ?」

「昔の演劇部で何があったのかは分かったが、結局のところ、それが今演劇部内で起こっていることにどう関係しているのかはわからなかったな」

「そうだね。……それにしてもなかなかぶっ飛んだお姉さんだったなあ」

「いや。俺はああいう人良いと思うね。あんな先輩がいる部活になら入りたいわ」

「明彦の好みはよくわからないな。でも楽しそうではあるね」


 僕はごそごそと制服のポケットから、帰り際にアヤさんこと北沢綺華さんからもらったチラシをとりだした。


 劇団「シビリティ・アロマ」というアヤさんが所属しているらしい演劇サークルの公演のパンフレットだ。「興味があったら見に来てね」と笑顔で渡されたのだが、さてどうしたものか。


 僕もいろいろ忙しいし、チケット代だって親からの小遣い以外に収入がない高校生にとってはちょっとお高い値段だ。


 でもコーヒーおごってもらって、話も聞かせてもらっちゃったしなあ。


「あーあ。大学生活か、キャンパスライフかあ。楽しそうだなあ。受験勉強とかないもんなあ」


 明彦は今日垣間見た大学生の日常に感じ入るものがあったようだ。


「大学生だって試験はあるし、就職活動だってあるだろ。でもまずは勉強して入試に受からないと……」


 勉強という言葉でふと思い出した。


 そういえばここ数日忙しくて星原との勉強会に顔を出せていない。一応用事がある旨はメールで知らせてはいるが、あまり会えない日が続くのは望ましいことではないな。明日こそは彼女に会いに行こう。


「あ、着いた。じゃあな、また明日」

「ああ、またね」


 明彦は自宅の最寄り駅についたところで下車し、僕も小さく手を振って別れた。

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