演劇

密室にて


「・・・ここはどこだ?」


「ん・・・どこ、なの・・・」


「なんなんですか・・・これ・・・」


「真っ暗で何も見えない・・・」


みんな真っ暗で状況がわからない。

ただ、聞いた覚えのある声なのは確かだ。


(ここにいるのは、僕を含めて4人・・・?)


唐突に明かりがついた。


「眩しっ・・・」


思わず目を閉じた。

何度か目をパチパチさせて、その場の環境に慣れさせた。


顔を振り向けると、そこにいたのは


「あっ、かばんじゃないか」


真っ先に視界に入った。


「タイリクオオカミさん...」


「かばんさん...」


「フェネックさん!」


「私も居るのです」


「じょ、助手さんまで・・・」


この場にいるのは僕と、フェネックとタイリクオオカミと助手。

なんの関係性もわからない。


辺りは真っ白い部屋。何もない。

ただ、真っ白なだけで方向感覚を失いそうだった。


「皆さん、ここに来る前、何していたんですか?」


皆が、考え始めた。


「私は、漫画を描いていて・・・、ちょっと休もうと思って眠ったんだ」


「そうですねぇ...、私も急に眠くなって...」


「アライさんと一緒に木の下で目を閉じたら・・・」


「僕も、眠りました。という事は、みんな寝て、気付いたらここにいたんですね」


眠って目覚めたら突如として、知らないこの部屋にいた。

状況はそんな所だろうか。


だが、この部屋で何をすればいいのだろうか。

出口も見た限りなさそうだ。まるで箱の中に閉じ込められてるみたいに。


僕たちの目の前には白い机がある。


「何をすればいいんだ・・・?」


タイリクオオカミが疲れたような声を出した。


「出口は無いのですか」


助手は少し苛立っている口振りだった。


フェネックは黙って、ただ僕の方を見つめていた。


「何で僕たちなんでしょう・・・」


僕が腕を組んで考えようとすると、天井から何かが降って来た。


「これは?」


フェネックが不思議そうに手に取った。


「封筒だね...」


オオカミが顎に右手を添えながら呟いた。


「何か入ってるですよ」


「開けてみますか」


封筒をフェネックから受け取り、中身を空けた。


中には二枚の紙。文字が書いてある。

この場で、文字が読めるのは僕だけだろう。

一枚目を取り出し、目を通す。

文章は全てひらがなで書かれていた。


「・・・・、役を演じろ?」


文書の内容を口に出した。

その声に反応し他の三人も僕に注目した。

僕は一瞬その様子を確かめてから、先の内容を読み進めた。


「あなた達には、役を演じてもらいます。

これを3回やれば、この部屋からは出られます。

役の割り当ては自由。課題が一つクリアされる事に壁にある、3つのランプが光ります」


僕は壁を確認した。

白い部屋で何もないと思ったが、同系色で見えにくかっただけで僕の右側の壁にあった。


「もし、課題がクリアできない場合はこの部屋から抜け出すことはできません。だそうです」


「では、その役とやらになりきれば良いのですね」


「なんだ、面白そうじゃないか」

オオカミは、少し笑みを浮かべた。


「取りあえず、出れる方法がわかったから良かったよ」

フェネックもいつもの調子を取り戻した様に見受けられた。


「じゃあ、さっさとやるのです。その役を演じるとやらを」

助手が急かしてきたので、僕は2枚目の紙を読み上げる事にした。


「愛す役、愛される役、誰からも相手にされない役、嫉妬する役・・・」


皆は黙っていた。役の内容が良く分からないのだろうか。

僕は拉致が明かないと思い、皆をフォローした。


「愛すっていうのは、多分、僕とサーバルちゃんみたいな関係じゃないですかね・・・」


「ふーん・・・」


フェネックは何となく理解したようだ。


「ひとまず、誰が何の役をやるか決めるのです」


「じゃあ、私は誰からも相手にされない役を選ぶよ。他のは難し過ぎる。」


腕を頭の後ろに組みながらタイリクオオカミが言った。


「フェネックさんと助手さんは、どうしますか?」


二人は顔を見合わせた。

どことなくまた、時間が掛かりそうな気配がしたので、じゃんけんで決める事を提案した。

日ごろから知識を蓄えておいてよかったと思った。


「勝った方が愛される役でいいですか?」

一応取り決めをして置き、二人は合意した。


じゃんけんをして、勝ったのはフェネックだった。


これで役は決まった。


同じ紙に各役にやるべきことが書かれているので、上から読み上げた。


「タイリクオオカミさんは、何もしなくていいみたいです」


「わかった」


椅子に座って、短く言葉を吐いた。


「えっと、助手さんは・・・」


僕は、助手に近寄って、耳打ちをした。一通り話し終わった後、


「...はい」


と肯いた。


それから、僕はフェネックにこう伝えた。


「取りあえず、僕がやるんで取りあえず心配しなくていいですよ」


「わかった...」


一枚目の紙を取り、最後の指示に従って、読み上げた。


「ゴホン...、第一演目、上演開始」


―――――


【第一演目/愛と憎しみ】


僕は、フェネックの手を取った。

部屋の右側の限界まで行く。


その短い間に、フェネックに小さい声で耳打ちする。


「もし嫌なら、嫌って言って大丈夫ですからね。

僕は台本に書いてあることをそのままやりますから...」


彼女は気持ち、僕と目をあまり合わせたくないのか。

よくわからない。


前方に壁があるのを確認し、フェネックを壁側に誘導させた。


(出る為だ。今僕に出来るのはこれしかない)


彼女の頬を右手で触れた後、そっと、首の後ろに回した。

サーバルを寝かしつける時の様に、髪を撫で始めた。

僕も、恥ずかしさはあるが文句も言ってられない。

なんだって、“役者”だから。


「フェネックさん、だいすき・・・」


部屋の壁と自分の身体で、彼女を押しつぶす様な格好になる。

そして、遠慮無く頬に口付けをし、背中を優しくさする様にした。


―――――――――

《作者より》

ホラー作品として書いてました。三演目構成で、最終的には全員殺さなければいけないという演技をさせるつもりでしたが、表現が細かくなりすぎて書く気が損失。ここで行き詰りました。なんだろなー、フェネキが登場すると頓挫する率高くなる気がするんですがそれは・・・。

かばん、フェネック、助手、タイリクという中々ない4人組の選出はこだわりました。しかし、これの続きは幻の物に・・・。合掌 (-∧-)

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