第22話「そうだね! みんなで太陽を見に行くツアーに出発!」

十章 櫛風沐雨! 洞窟ドラゴンとお父さん!


 神話には太陽の神様が存在する。名は「アマテラス(天照大神)」と言い、様々な伝承について耳にしたことだろう。中でも有名な話は、天岩戸の話だ。高天原で弟であるスサノオが、好き放題してしまったことに罪悪の意識を感じ、天岩戸に閉じこもってしまう。弟の行動をきっかけにして、姉が世の中を捨ててしまうと言う話だ。


 アマテラスがひきこもってしまうと、この世は闇に包まれる。


 この《アマガハラ》も、高天原と同じように、太陽がなくなってしまって久しくなる。実際にアマテラスがいるとするならば、早くこの世をもう一度照らしてくれよと、強く切望する。実際にこうして太陽を見たことのない俺たち《ヒミナシ》や、太陽を諦めてしまった《ヒシナシ》のためにも早く、太陽の姿を確かめさせて欲しい。


 望日は太陽を見せてくれると言った。望日はもしかしたら、天を照らす太陽の神様、アマテラスなのかもしれない。



――もっとも、望日は今、天岩戸のように閉ざされた空間に閉じ込められている。




誰かが救い出さなければ、世界が太陽を見ることは叶わない……





「ったく、痛っ……」


 俺は足場が崩壊したのを見た後の記憶を持たない。気がつけば真っ暗な暗闇にいた。水の音が聞こえるので、近くに水場があることは分かる。とりあえず、水さえあれば大丈夫だ。水さえあれば俺はイキイキできる!


――って俺は魚類かってーの。


 一人で突っ込みを入れる俺。望日や緋乃と別れることになってしまったが、きっとすぐに会える。そうに決まっている。


 太陽も見ることなく、こんな文字通り日の目を見ることなく死ぬのなんてごめんだね。俺は最期の最期まであがいてやる。


「だから……」


 この目の前の討伐しそこなったドラゴンを退治しないとな! 気炎万丈の俺は、思いっきり右手から圧縮された水を繰り出した。


「目の前のお前にお見舞いだっ!」


 目の前と言ったが、俺の目の前にドラゴンの姿はない。なぜならここは光1つない暗黒だからである。視覚がはたらかなくとも、あの巨躯が動いているということは気配で分かる。


「ぐっ……」


 プロテウスは、嗅覚、聴覚が非常に発達しており、水中の音波を地面の振動のように感じることができると言われている。だから、俺は奴を捉えられないが、奴は俺を捉えることができる。


「なんてアンフェアなバトルなんだ」


 歩が悪い勝負になってしまっているが、どうにかこの場を切り抜けなければ、俺に未来も太陽もない。


「くらえッ! ウォータースプリンクラー!」


 なんてことはない、ただ今まで使っていた水流を自分が回転することで四方八方にまき散らしただけである。


「お、効いてる。効いてる」


 プロテウスの動きがさっきよりも激しくなっている。きっと攻撃されてご立腹なのだろう。

「よしっ! このまま押していけば!」

 



「よしっ! 緋乃も手伝って!」


「これってけっこうヤバいんじゃ……」


 望日と緋乃は、必死になって墓荒らし行為を実行していた。せっかく安眠している人たちを無差別に暴いていくその姿は、アマテラスとは程遠い、非人道的行為だった。


「仕方ないじゃん! このままだったら望日たち外に出られないんだし……」


――未来に行かなくっても、太陽は、望日ちゃんが見せてあげられるし。


「だからって、こんなことするのは……」


 望日と緋乃は必死にこの《スーソルグロッド》から地上に帰る方法を模索する。ナンバーハチロク、ナンバーナナゴウは望日の作りかけた《水流再構築転移装置(ハイドロトランジット)》に夢中なのかどこかに消えてしまった。だからこうして、頼れる人を探して、望日は棺を開け続けている。


「緋乃は……どうすれば良いと思う?」


 望日はそう言って緋乃を頼る。二人で解決しなければ、このままではここでジエンドだ。


「聞いたことがあるのは……」


――風を探すんです。


 緋乃は洞窟で迷ったら、風が吹く方に進めば道は拓けるということを知っていた。それはこの《スーソルグロッド》では通じない方法かもしれない。でも、今の二人には試してみるほかなかった。


「なろほど、やってみよう……」


 しかし、風など見つかるハズもなく、しばらくした後にまた振り出しに戻ってしまう。


「そこの二人……こちらに来なさい……」


「怖がることはない。ナンバーハチロク、ナンバーナナゴウが世話になったようじゃ」


 てっきり《水流再構築転移装置(ハイドロトランジット)》に心酔していたと思っていたナンバーハチロク、ナンバーナナゴウはある男を連れて来た。


「わしはナンバーゼロ。この《スーソルグロッド》を創り出したのはわしじゃ。だから、こうして《スーソルグロッド》を終わらせることだってできる」


 そう言って、ナンバーゼロと呼ばれる男は、あろうことか周りの水を操り出した。


「これって《雨操り》の能力……」


 緋乃が呟いた時には、ナンバーゼロはすべての棺を攻撃していた。


「ちょっ……待ってください! 何を!」


 見かねたナンバーハチロク、ナンバーナナゴウが止めに入る。


「ナンバーハチロク! ナンバーナナゴウ! 離れなさい!」


 一体この男は何がしたいのか、望日と緋乃には分からない世界だった。ただ、このナンバーゼロは、伊達にゼロの名を名乗っていないということだ。


「皆の者、聞きなさい。今、選択の瞬間(とき)が来た!」


――地上で太陽を見るか、未来で太陽を見るか。


「ただし、未来の太陽は保証しかねるが……」


 水で満たされた棺に音が伝わるように、ナンバーゼロは水を自在に操っているようだった。


「望日さん……望日さんが、太陽にこの《ヒシナシ》を導いてやってはくれんか……」


――私からのお願いじゃ……


 望日の回答は言うまでもなかった。


「そうだね! みんなで太陽を見に行くツアーに出発!」


 先ほどの閉塞感はどこへやら、ナンバーゼロがいれば打開策が見えてきそうだ。外からの風は吹いては来なかったが、希望の風が唐突に吹き荒れた。


「そう言ってくれると思っておった」


 棺からぞろぞろと人が出てくる。しっかりと両の目を持った人だ。


「ゼロさん、俺たち、この時代でも太陽が見れるんですね……」


 彼らの視線が望日に向けられる。その瞳からは、すべての望みを望日に託しているように見えた。


「これで、全員ですか」


 もちろん、全ての人が棺から出てきたわけではないが、大半の人々が望日の希望に魅せられて、この暗き雲に覆われた世界へと再び帰還する。


「さあ、望日さん、あの岩が崩れかかっているところを同時に攻撃するんじゃ。やれるか?」


「せーの」の合図で望日とナンバーゼロは、水を力いっぱい放出する。そうして、いとも簡単に岩の先へと進む。




――はずだったのだが……





「どうやらこの岩も一枚岩ではなかったか」


 冗談を言う余裕があるならもう少し力を入れれたんじゃないかと思えた望日だったが、どうにも二人ではここから出ることは叶わなかった。


「結局、また振り出しに戻っちゃうの……」


 緋乃がか細い声で囁いた。




 その時だ。




「地面がまた揺れている。ついにこの《スーソルグロッド》が崩れる……」


 先ほどの放水で色々なところにダメージを蓄積させてしまったのだろう。壁が地が天がガタガタと怯える様に震え始めた。


 望日と言う天照はこの天岩戸から出ることは叶うのか。それは神のみぞ知るといったところである。




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