第14話 『モテる力』と『モテる力』
校庭。
男性教師が一人で立っている。
重作 助太(しげさく じょうた)
27歳 未婚。
職業 数学教師。
趣味 ランニング。
夢 友達のような、生徒たちから信頼される先生になること。
というのは、表向きの夢。
本当の夢は。
誰も知らない願い事は、
美少女JKと肉体的な関係を持つこと。
つき合う。結婚することではない。
ただ、若々しくて、瑞々しくて、艶やかなまだ成熟していない美しい少女の肢体を自分の思うままにしたい。自由にしたい。
そんな願い事を重作は持っていた。
もちろん、そんな願い事を表に出すことはない。
友人にも語った事はない。
ただ、心の底に潜めていた願いだ。
その願いを成就するために、ちょっと身なりを気にしたり、良い車に乗ったりしたが、まぁそれは常識の範囲だろう。
常識の範囲の行動だ。
その範囲が、行動が、常識と逸脱したのは、常識ではない者と遭遇したあの時だろう。
休日。
趣味、と公言しているランニングをしている時だ。
重作の目の前に異様な雰囲気を持っているおじさんがいた。
『寒さがスゴい男が公園を走っている』
という変な日本語のTシャツを着ているおじさんだ。
おじさんは重作に言ったのだ。
『力が欲しいか?』と。
威圧というか、迫力というか。
今まで経験したことのないような力を、おじさんから感じ、重作は萎縮した。
そして、普段なら絶対に話さないような願いを、おじさんに話してしまった。
『モテる力が欲しい。女子生徒を自由に出来る力が』
そして、重作は種を植えられた。
『御術』の因子。
願い事を叶えるための力が与えられる種。
使いたい力を使えるようになる、種。
それが発芽したのは、次に仕事に向かった時。
高校に向かったとき。
女子生徒たちを見たときだ。
一度、おじさんに話してしまい、タガが外れてしまったのだろう。
望みは、口にした時点で力を持つ。
我慢していたモノが、耐えていたモノが、望みが、吹き出した。
重作は、力を得た。
『御術』を得た。
『モテる力』
女子生徒を自由に出来る力。
それを使って何を得るか。
重作は『誰を自由にするか』を考えた。
結論はすぐに出た。
重作が働く高校に美少女だと思える生徒はたくさんいる。
いるが、それでも彼女は別格だった。
女子生徒に近づくために生徒会関係の仕事をしていた重作にとって、彼女は身近な美少女JKだった。
木足 守。
品が良く、真面目で、見目も良い美少女。
だからこそ重作は彼女を自由にしたかった。
自分の自由にしたかった。
そのため、重作は『モテる力』を使った。
使ったが、失敗した。
校庭の真ん中に立っている重作に向かって、何かが高速で飛んできた。
黒い、握り拳程度の大きさはある球体。
砲丸投げの砲丸だ。
100キロは出ている。
鉄で出来た球体がその速度で頭に当たれば無事で済まないだろう。
だから、重作は飛んでくる砲丸に向けて右の手のひらを向けた。
砲丸が、手のひらに当たる。
大きな音を立て、重作の手のひらは弾け飛ぶ……なんて事は起きなかった。
ただ、音もなく重作は砲丸を受け止めていた。
「……なるほどな。木足の事は見捨てるってわけか」
砲丸が飛んできた先を重作は見る。
そこには、男子生徒が立っていた。
重作とおなじ、力を持った少年。
太刀宝 力雄が立っていた。
「……お前をそのままにしていたら、助からないだろうが」
力雄は、持っていた砲丸を重作に向かって投げる。
まるで野球ボールを投げるように、振りかぶって砲丸を投げる。
通常、そのような投げ方をすれば肩が外れてしまうだろう。
しかし、力雄の『御術』は『モテる力』
あらゆるモノを持てる力。
『モテる力』で持ったモノは、力雄の手を離れるまで、重力などの影響を受けない。
だから、野球ボールよりも軽く、速く、砲丸を力雄は投げる事が出来る。
しかし、だからといって光速や音速で投げるなんて事は出来ない。
力雄の腕を振るスピードがそこまで速くないからだ。
出て精々百数キロ。
そのスピードで、砲丸は重作に向かって飛んでいく。
砲丸と考えれば驚異的なスピード。
しかし、それは素人でも十分飛んでくるモノを関知し、受け止める事が出来るスピード。
正面に飛んできた砲丸を、重作はまた、今度は左の手のひらで受け止めた。
「……ちっ!」
「……遠距離攻撃。それにあんだけ脅したってのに、迷い無く仕掛けてくるってことは、聞いたのか? あの『力をあげる』とか言う胡散臭いおじさんに」
重作がメンドクサそうに息を吐く。
「どこまで聞いたんだ? 俺がお前の力について教えてもらったんだ。お前も俺の力を……聞いたのか」
重作が体を伸ばす。
砲丸から手を離して、両手をあげて。
砲丸は……宙に浮いていた。
「『モテる力』女子生徒を自分の自由にしたいと思って身につけた力。俺が触ったモノは、全て動きを止める。飛んでくる砲丸だろうが、生きている人間だろうが」
そう言って、重作は力雄に手のひらを向ける。
「触れば終わりだ。お前の力はどんなモノでも持てる。だったか? その力で遠距離攻撃してくるのはいいが……それで勝てると思うのか?」
宙に浮いていた砲丸が地面に落ちる。
「砲丸だろうが何だろうが投げてこい。さっきは油断して砂をかけられたが……警戒すれば問題ない。触れば俺の勝ちだからな」
そう言って、重作が力雄に向かって走ってくる。
触れば動きを止められる。
ならば、重作が近距離戦を選んでくることは当然だろう。
「うりゃ!」
力雄はもう一つ持っていた砲丸を重作に向けて投げる。
それを、重作は走りながら手のひらで止める。
「遠距離で攻撃は正解だろうよ。けどなぁ、銃とかならまだしも、ただ手で投げて飛んでくるモノなんてどんなモノでも止められるんだよ!」
何事もないかのように重作は力雄に向かってくる。
「……これでもか!」
力雄が次に投げたモノ。
それは、鋭く尖ったナイフだった。
『あの先生には先に教えたからね。これくらいはあげるよ。バランスだ』
とおじさんがくれたナイフだ。
重厚的なナイフ。通常なら投げるのにも苦戦してしまうようなモノであるが力雄には関係ない。
『モテる力』で投げられたすさまじいスピードののナイフ。手のひらで受け止めようならその手を貫通し、胸部をも貫くだろうスピードのナイフに、重作は何事もないかのように手のひらをむけた。
音もなく。
ナイフもまた空中に静止する。
「止めるっていっただろ? 砲丸だろうが、触れれば切れるようなナイフだろうが止まるんだよ」
嘲るように、重作は手のひらをナイフから離す。
「そうだな、だから、これならどうだ?」
ナイフを止めることは、力雄も予想済みだ。
だから、もらっていた。
右手に4本。左手に4本。
先ほどと同じナイフを力雄は握り込む。
「うらぁあああ!!」
一本でも投げるのが困難な重さのナイフ。
しかし、それが4本でも、両手を合わせて8本でも関係ない。
力雄は『モテる』からだ。
8本のナイフは、全てまっすぐ重作に向かっていく。
1本なら、1球なら、重作はナイフを止めることが出来るだろう。
しかし8本。
両手を使っても全てを手のひらで止めることは出来ない。
重作は身を守るように両手で頭を覆った。
8本のナイフが、全て重作の体に当たる。
静寂が、校庭に広がる。
「……なんでだ?」
そう、静寂だ。
音が聞こえない。
重作の体にナイフが刺さった音が、骨さえ砕くような威力で飛んできたナイフが命中したというのに、音は一切聞こえなかった。
「……止めるって言っただろうが。止めるってことは……変化しないってことだ」
ポロポロと、重作に命中した8本のナイフが落ちていく。
「服を止めた。火事の時ガラスを割れなかっただろ? 俺が止めたモノは破壊できない。衝撃さえない。止まっているからな。音が聞こえなかっただろ?」
重作の服には、穴さえ開いていない。
パンパンと、埃を払うように重作ははたく。
「ナイフはあのおじさんからもらったのか? 公平とか言って……あのおじさんも殺しておくか? 俺の『ハーレム』に、あのおじさんは邪魔か」
重作が力雄に向かって歩いてくる。
「もうもらったモノは終わりか。じゃあ、止めるぞ?」
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