第13話 おじさんが現れた

「おじ……さん?」


「絶望……といった顔だね。望みを絶たれた顔を見るのは職業柄ツラいモノがあるが……」


「……助けてください」


 力雄は、力なく言う。


「……助ける?」


「木足先輩が……この子が、このままだと助かりません。お願いします。俺が何でもします。助けてください」


 おじさんは、表情を変えずに答える。


「……何でもか。でも、何でもするなら、あの先生……いや、おじさんの方が先に生まれたのだから先生ってのはオカシイのか。あの……若者? まぁ、いいや。あの、若者のところに行けばその子は助かるんだろ?」


 君は死ぬけど。

 とおじさんは言った。

 どうしておじさんが重作先生との会話を知っているのか。


 そんな疑問はあるが、その程度ことどうにかする力はあるのだろうと、力雄はその疑問を口にしない。


 代わりに、おじさんの疑問に答える。


「それじゃあ。ダメなんです。重作先生の言うことをそのまま聞くのは、ダメなんです」


「どうしてだい? 何でもと言っても、やっぱり自分が死ぬのは嫌かい?」


 おじさんの問いに、力雄は首を横に振る。


「違います。美人の為なら命をかける覚悟はあります。けど、重作先生の言うことは聞けないんです」


「ほう。それはなぜだい?」


 おじさんの問いに、力雄はよどみなく答える。


「重作先生の言うことを聞いても、木足先輩は助からないからです。命は助かっても、木足先輩はきっと不幸になる」


 力雄は顔をゆがめる。


「重作先生は、木足先輩の制服を脱がせていました。木足先輩は泣いていました。会話の内容は知らないですけど……たぶん、無理矢理、脅したりして脱がせたんだと思います」


 おじさんはただ黙って聞いている。


「俺がこのまま死んでも、重作先生はきっと木足先輩に同じようなこと、もっとヒドい事を強要すると思います。それは、ダメだ。絶対に許せない」


 力雄は、おじさんを見上げる。


「だから……助けてください」


 それは、純粋な願いだった。

 邪なことはない、思いだった。

 

「それは出来ない」


 だが、そんな力雄の懇願を、おじさんはあっさりと断る。


「……どうして? おじさんなら、重作先生をどうにか出来るでしょう?」


 力雄はおじさんの事をよく知らないが、それでも、おじさんから万能というか、全能を感じることがあるのだ。

 重作先生も未知ではあるが、それでもおじさんの方が上だと思う。


「おじさんは力をあげるだけのおじさんだからね。干渉することは出来ない。それが理だ。それに……あの若者に力をあげたのは、おじさんだ」


 おじさんの信じられない言葉に、力雄は目を開く。


「……は?」


 おじさんは、笑っていた。


「いや、使徒同士の争いは常に起きるモノだけど、こんなに早く発生するなんて……やっぱり同種の願いだから……」


力雄は立ち上がり、おじさんの胸ぐらを掴む。


「どういうことだ?」


 もう、力雄から、さきほどまでの丁寧な態度は消えている。


「落ち着きなよ、少年。助けることは出来ないけど、協力はしてあげるからさ」


 おじさんは朗らかにそう言うが、力雄はおじさんの胸ぐらを掴んだままだ。


「……協力?」


「助言ともいうけどね。それくらいなら出来る。というか、しないといけないんだけどね」


「……それで?」


 ギっと、力雄は目に力をこめる。


「昨日、聞かれたんだよ。あの先生に。太刀宝力雄に『御術』を与えたか?ってね」


 おじさんの体は浮いていた。

『モテル力』力雄に持ち上げられていた。

 それでも、おじさんは平然としている。

 平然として笑みを崩さない。


「それで、答えたのか?」


「ああ、望まれたからね。おじさんが与えた力の話だし。君が『御術』の持ち主だと言うことと、『モテる力』を持っていることを教えたよ」


 おじさんに悪びれた様子は、一切ない。


「さきに言っておくと、君に聞かれたらちゃんとおじさんは教えていたよ? これでも平等、バランスは守る方だからね」


「そんな事はどうでもいい。ただ、こんな状況になったのは、重作先生が俺を狙ったからなのか? 俺が重作先生と同じような力を持っていたから……」


 力雄の顔が、悲しそうにゆがむ。


「……なるほど。それに怒っていたわけか、君は」


 納得がいったように、そしてなぜかうれしそうにおじさんは頬をゆるめる。


「今日、この時に君が襲われたのは、あの先生が君が『御業』持ちだと知ったからだとは思う。だが、その綺麗な子は遅かれ早かれあの先生に襲われていた」


「……どういうことだ? 今襲われているのは俺のせいじゃないのか? 俺のせいで……木足先輩が……」


「違う。それは違う。それに関しては君は気に病むことはない。というより、君が襲われた原因が、その子にあると言ってもいい」


 おじさんは、ちらりと倒れたままの守に目を向ける。


「……なんでだ? 木足先輩が何で……」


「かわいいから」


 と、おじさんは言った。


「美しいから、綺麗だから、美少女だから、女子高生だから……そんな理由だよ」


 おじさんの答えに力雄は眉を寄せる。


「いや、意味が……」


「あの先生の願いが、君と同じだったいうことだよ」


 おじさんは言う。


「『モテる力』それを、あの先生もおじさんに願っていた」


 そう言ったおじさんの笑みが、見下しているような、嘲笑だった。

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