第7話 清掃大会で『モテる力』を使ってみる
※幼なじみの名前を命(みこと)から美命(みこと)に変更しました。
「うわっ!? クラゲだ!」
「ちょっとこれ重いー」
今日は一年生全員が駆り出されて行う地域の清掃大会。
海岸の担当になった力雄たちのクラスは、流木や流れてきたゴミを回収していた。
皆学校指定のジャージを身にまとい、女子たちはわいわいと楽しそうにおしゃべりしながら小さなゴミを集めていて、男子は打ち上げられていたクラゲを棒でつついたり、隅の方に落ちていたちょっとセクシーな雑誌に盛り上がったりしている。
そんないつもとは少し違うクラスメイトの様子を見ながら、力雄はここ最近尽きないため息を大きくついた。
このため息の原因は、もちろん力雄が目覚めた『モテル力』だ。
元々そんな特殊な力など持っていなかった力雄がどんなモノでも持ち上げる事が出来るようになる『モテル力』を身につけたこと自体、悪い事ではないし、むしろ有り難い話なのだろう。
ただ、その力が、ただモノを持てるようになるだけとは、ため息の一つや二つ、いや10でも100でも出ようとモノだ。
ましてや、それがどんな力でも望んだ力が手に入る状況であったと知ればなおさらだ。
『口で出した望みの力と、実際に望んで手に入れる力に誤差が生じることはよくある。けど、ここまで望んだ方向性が違う力ははじめてだ』
とは、この『モテる力』を授けてくれた変なTシャツを着たおじさんだ。
杖で倒木をつぶした後、おじさんは力雄が身につけた力について大まかだが教えてくれた。
『その力は『御術(みわざ)』という。術者の……君自身の『意気』によって生まれる奇跡だ』
『おそらく、火事の時に君が椅子を持ち上げたいと強く望んだ事で、『モテル力』という『御術』になったのだろう』
『その力の使い方は、君自身で決めなさい。私はきっかけを与えただけにすぎないからね『モテる力』……モノを持てるだけの力……クッハハハハ』
おじさんはカラカラと笑いながら去っていた。
「……そういえば名前も聞いてなかったな。失敗した」
いろいろ混乱していた力雄は、質問も出来ずにそのままおじさんを行かせてしまった。
正直、わからないことだらけなのだ。
なぜこんな力をおじさんは力雄に与えたのか。
そもそも、おじさんは何者なのか。
疑問は尽きない。
力雄は大きく息を吐く。
「……どーしたの? 力雄?」
「うわっ!?」
突然、横からヌッと現れた人の顔に、力雄は驚く。
「びっくりさせるなよ! 美命」
力雄の顔をのぞき込むようにして見てきたのは、力雄の幼なじみ、美命である。
日焼けした顔から白い歯をニッと見せていて、驚いた力雄をおもしろそうに見つめている。
しかし、すぐにその口を閉じて、じっと睨みはじめた。
「ため息なんてしてさ、最近おかしいよ? どうしたの?」
「別に、何も……」
変なおじさんから、何でも持てるようになった力を手に入れた、なんて話、出来るわけがない。
「何もって……もしかして、まだあの美人な看護士さんの事考えているの? 力雄には無理だよ、あんな綺麗なおねーさん」
「違うし無理でもねーし」
「じゃあ……木足先輩の事を考えていたの?」
先ほどまでと少し口調が変わった美命を不思議に思いながら力雄は返事をする。
「いや……違うな」
力を手に入れたきっかけは守の事件なので関係あるといえばあるが……
力雄の返答に、先ほどまで睨んでいた顔をさらに美命はゆがませる。
「美命?」
「まぁ、別にいいけどさ。別にいいんだけど……」
「おーい。ミコッチ。ちょっとこっちを手伝って」
ちょうどそのとき、高台の方にいるクラスメイトの女子たちに美命は呼ばれる。
「うん、今行く!」
「あ、おい」
「じゃああとでね」
美命はそのままクラスメイトの方に向かっていった。
「……なんだよ、あいつ」
美命の背中を見つつ、力雄は背筋を伸ばす。
視界の端に、大きな流木をどうしようか悩んでいる別のクラスの女子達が見える。
女の子を助けるのは、モテる男の義務。
そちらに向けて、力雄は歩いていった。
「……太刀宝くんって、意外と力持ちなんだね」
「いや、そうでもないよ」
ニコニコと笑顔を浮かべながら力雄は流木を軽トラの荷台に乗せる。
一緒についてきた女子達の顔キラキラとしている。まぶしい。
(……あれ? これいいかも)
モテたいのに、モノを『モテる力』なんて手に入れてどうしようかと思ったが、これはこれで使える。
(よく考えれば重たい荷物を持つなんて、モテる男の代表アビリティの一つじゃないか!)
周りを見ると、荷台に乗せる事が出来なかったのか、重そうなゴミだけ周りに置いてある。
力雄はその一つをヒョイと持ち上げると、軽々と荷台に乗せる。
「キャーすごい! 本当に太刀宝くんって力持ちなんだね!」
パチパチと女子達が力雄をはやし立てる。
(あー……モテてる! 俺! モテてる! 女子達にモテているよ!)
これでいい気にならない男はいないだろう。
「いや、これくらい軽いモンだ。大変な時は、いつでも僕に頼ってくれよ」
キラリと、必殺スタースマイルを力雄は女子達に向ける。
彼女達はキャッキャッと笑っているが、もちろん効果は無い。
「……ねぇ、あれウチらのクラスのゴミじゃね? 太刀宝くんにやらせていいの?」
「いいんじゃね? 太刀宝くんうれしそうだし」
そんな女子たちのヒソヒソ話など力雄にはもちろん聞こえていない。
ヒョイヒョイと荷台にゴミを乗せ、数分で周りは片づいた。
「ありがとーまたねー」
そんな事を言いながら女子たちは去っていった。
「……ふぅ。またモテ度があがってしまった」
いいように扱われただけの男がキメ顔で何かを言っている。
と、そんな時だ。
「キャー!」
と海の方から、悲鳴が聞こえてきた。
何が起きたのか、力雄はそちらの方に目を向ける。
堤防にいる女子たちが口を押さえ、海の方を一様に見ている。
その視線の先に、何か浮いている。
バシャバシャと海面を叩いているそれは……美命だった。
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