第41話 ホムンクルスの心

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 この話は視点がホムンクルスなので、意図的に箇条書きのような、それでいてたどたどしいような文章で書いてきます。

 ご了承下さい。

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 何日も一緒にいた冒険者たちが、彼と私の目の前で死んでいった。アメイラ···エイラの姉である少女は、彼に笑いかけながらゴブリンに撲殺された。


 笑いながら泣く···


 楽しければ笑うだろう。

 辛ければ泣くだろう。


 だが、あれは相反する感情が同居しているように見えた。何でだろうか。未だにあの表情が脳裏にこべりついて離れない。

















 彼を魔物から守るために二日間戦い続けた私は、ギルドの救助隊に助けられた。

 なんでも、一定時間が経過したあとも冒険者が帰ってこなかった場合、高ランクの冒険者が助けに向かうらしい。


 どうしてわざわざ受付を通すのか。どうして攻略する階層を予め知らせて、受付嬢の許可を取らなければいけないのか。


 その理由を、自らが助けられて初めて理解できた。


 その後ギルドマスターと名乗る人物に様々なことを質問され、回復魔術を掛けてもらってから宿に戻ったと記憶している。


 











 みすぼらしい。


 部屋に戻ってきた彼を形容するならば、そんな言葉が似合うだろうか。


 周囲に当たり散らすようで、少しだけ怖かったと覚えている。彼の苛立ちが何から来ているかは想像がつかず、どうすればいいかが分からなかった。もしかしたら、パーティーメンバーが死んだことに腹を立てているのかもしれない。













「なぁ?」


「どうかした?」


「お前、何も思わないのか?」


「何も······何に何を思えばいい?」


 彼が質問をしてきたことがあった。何故そう聞いてきたのかは分からない。ただ、ありのままを答えられなかったことが気がかりだ。


 本当は胸の中につっかえる針があるようで、苦しかった。だけど、それを言葉を表せなかった。


 何故怒ったのだろうか?何が気に入らなかったのだろうか?彼は目に涙を浮かべながら、私の胸ぐらを掴んでいた。


 必死に叫んでいた。


 










 そんな彼を見て、ふと以前読んだ本の内容を思い出した。


 仲間が死んだことで落ち込んでいる主人公の元に、プレゼントが送られてくるのだ。そのプレゼントは、死んだ仲間が主人公の誕生日を調べて、当日になるように手続きをして送りつけたものだった。

 中身が何だったかは覚えていない。だけど、それを受けて主人公は気を持ち直す決意をしたのだ。


 そういえば、彼はロイドと籠手のあて布についての話をしていた。酒以外であの執着ぶりを見せるのは、は異常だったと記憶している。他に欲しいものがない、とも言っていた。


 なら、私がそれを送れば、元気を取り戻すのだろうか?


 彼から渡されていたお金は使っていないから、買えないということはない。


 ふと湧いたこの思いは、感情と言うのだろうか?私が動けば、彼も動くのだろうか?


 分からない。だけど、分からないという空白を、思考で埋め尽くしておきたかった。エイラと触れ合ってから感じる私の中の何か。それを大切にしたいと思ったから。


 あて布を買ってみよう。この、私の中にある何かが、彼に届くことを祈って。

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