第31話 日常回

 たっぷり二時間ほどエイラと話した後、俺とホムンクルスは帰宅することにした。


 エイラは話し相手が増えたことに狂喜乱舞し、終始饒舌になっていた。

 絵を描いたことを話し、その実物を見せてきては「上手でしょ?」と自慢を始めたり、アメイラが不器用ながらも作り置きした料理についての話をしたり。最後の方になると、俺達の冒険について質問してきたりもした。


 まぁ、冒険者について盛大に勘違いしているようで、初っ端の質問がドラゴンを退治したときのことを教えて、だった時はびっくりしたが。


 びっくりしたと言えば、エイラが描いた絵にも驚愕を覚えた。もうかれこれ二年近く家を出ていないエイラは、室内の遊びだけで暇を誤魔化しているという。その影響か、描いたイラストの完成度が尋常じゃなかったのだ。細部への書き込みや影の明暗。どれも、素人のレベルを逸していた。


 アメイラの料理とやらに興味が沸かないでもなかったが、それは、まぁ、聞いたら怒られたとだけ。


 そんなことがありながらも宿に戻ると、受付にはフレイが突っ立っていた。フレイは俺の姿に気づくと、わずかに眉をひそめる。


「なぁ」


「何よ?」


 先にホムンクルスと会話しようと思ったが、こいつは俺に怒鳴られたことをなんとも思っていなかった。だから今後は気を受けることにして、すると、必然的にフレイとの道が残る。アメイラとの秘密の共有を通して、話し合うことの大切さを、少しは感じたのだ。


「この間のことで謝りたい。何時なら時間空いてる?」


「別に良いわよ。このまま無視し続けるんじゃないかと思ってたくらいだし」


 前言撤回。フレイも案外気にしてなかったらしい。もしかしたら俺が誤りに来たことで機嫌を戻してくれた可能性もあるが、それは俺の知るところではない。


「じゃあ遠慮なく。今日は食堂寄らないから」


「何処かで食べてきたの?」


「ま、そんなところだな」


 ホムンクルスと帰りに買い食いしてきたとは言えない。絶対に怒られる。


 そのまま寝て一日が経った。











 昨日アイクたちと約束していた通りダンジョンの前で待機していると、早速アメイラがやってきた。


「朝早いですね」


「昨日は夜に何もせずに寝たからな」


「てことは、何時もはナニしてるんですか?やっぱり」


「は?馬鹿じゃねぇの?」


 初対面―――ゴブリンに襲われているアイクたちを助けたとき、こいつはこんな性格じゃなかった。もっとこう、マスコット的なキャラクターだった。確実に、今のほうが酷くなっているだろう。


「お前、そっちの下品なのが素か?」


「さぁ?ただ、アイク達に見せているあれは演技ですよ」


「やっぱりな。まぁ、エイラがいるんじゃ、少しでも防衛線は張りたいってもんか」


「防衛線?それは形容の仕方が可笑しい」


「おい」


 エイラとの関わりがどう影響したのか、あれからホムンクルスが少しだけ会話に積極的になった。が、未だに空気を読んだり遠慮したりは苦手のよう。


「確かにそうですよね。シオン君って時々、訳わからない言い回しになりますよね」


「ならないから。後、お前ら結託して俺をディスるな」


 知らぬ間に形成されていた同盟の前に為す術もなく撃沈していると、ロイドがやって来る。


「おいおい、朝っぱらからこりゃなんの騒ぎだ?」


「そんなのはどうでもいいから、こいつら黙らせてくれないか?ロイドが来るまで、なぜか俺が文句を言われ続けてんだよ」


「あ?文句だぁ?どんなことだよ?」


 なんだったか。


「確か······性格悪い、言葉遣いが悪い、弱い、意地汚い、なんでそれで主人公やってんの、とか?」


「おう。最後の一個は知らねーけど、大体あってんじゃねーの?」


「お前までそんなこと言うか?!自覚はしてたけど、そこは友情的なもんないの?!」


「友情?んなもん殴り合わなきゃ分かんねーだろうが?」


「あ、じゃあいいや」


 殴り合ってまで分かり合いたくはないものだ。


「そういうところが性格悪いって言ってるんですけどね······」


「何も学習していない」


「お前らなぁ、ここぞとばかりに悪口言うなよ?」


 特にホムンクルス。お前、無い無い言いながら、実は感情とか持ってたりしないか?時々ピンポイントでエグい指摘をしてくるけど。


 その後もわちゃわちゃしていると、カイとアイクが一緒になってやって来た。


「あれ?朝から元気ですね。何かあったんですか?」


「おう、アイクとカイじゃん。何か、こいつらが幼稚な言い争いしてるだけみてーだぞ?」


「言い争うとは、また珍しいな。アメイラもそうだが、シオンの奴隷も参加しているとは」


 カイの言葉も最もだ。普段ほわほわキャラを演じてるとはいえ、アメイラが加わっていること自体には違和感を覚えない。だが、人間味すら欠ける振る舞いをしているホムンクルスが、冗談に付き行っていることが、不思議でならないのだろう。


 今日帰ったら、何か感じることでもあったのか聞いてみるか。


 そうこうしているうちに、騒がしいままダンジョン攻略が始まった。

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