第30話 攻略のあとで

 二層のボスを討伐した後、ギルドに報告をしてから俺達は解散した。


 アイクは武器の新調をしたいと武器屋に向かい、カイとロイドは飲食店へと移動。自然と残された俺とアメイラとホムンクルスは、それぞれ無言のままに立ち尽くす。


「これからどうしますか?」


「どうするか······どうするよ?」


「私に聞かれても分からない」


 ホムンクルスに問うが、返答は単調なもの。考えてすらいないらしい。


「はぁ。分かってはいたけどな。お前のそういうところ」


「ところで、シオン君と奴隷さんって、どういう関係なんですか?」


「は?」


「何故?」


 ホムンクルスと言葉がかぶる。それ程、このタイミングでのアメイラの質問が想定外だった。


「いや、だって不思議ですよ?シオン君と奴隷さんの空気感って」


「不思議って、どんなふうにだよ?」


「そうですね······。奴隷相手にあれこれ尽くしてるのに、そこには恋愛感情がないところ······とかですか?」


「善意ってこともあるかも――――」


「それはないですね」


 おい。そこは即答して欲しくなかったんだが?てか、ホムンクルスも頷くなよ。


「奴隷さん奴隷さん。シオン君とは、どういう関係なんですか?」


「命の恩人?助けてもらった恩がある」


「へぇー。シオン君が、命を助けたんですか。珍しい事もあるもんですね」


 命を助けた······あぁ、契約のことか。確かに、あの時はああするしか方法が無かったもんな。でも、俺はホムンクルスの命を削って力を求めた訳だし、もう恩人とかじゃないだろ。


 一方的な感情の押し付けは善意と呼ばないし、ホムンクルスの意志を無視した行動は褒められたものじゃない。


「そんな大層なものじゃないよ。あの場にいたのが俺ってだけで、コイツを助けること自体は、誰でも可能だった」


「?」


 アメイラは首を傾げた。俺の言葉から状況を想像しているのだろうか?だとしたら、この話題は打ち切るべきだろう。


「ま、人には事情があるんだよ。あまり関わらないでくれ」


「相変わらずの言い方ですね······」


 アメイラはわざとらしくため息をついた後、思い出したようにハッと顔を上げた。


「そういえば、エイラが······っあ」


 おおかた、エイラが俺と話をしたいと言っていた、とでも伝えようとしたのだろう。ただ、人通りが少ないとはいえ、ホムンクルスのいる前で話す内容ではない。


 俺はアメイラを鋭く睨みつけてから口を開く。


「気が抜けてるぞ。聞いてるのがこいつじゃなきゃ、どうなってたか」


「奴隷さんは大丈夫なんですか?」


「俺が黙ってろって言えば、何も言わない」


 奴隷が主人の言葉に逆らえないのは、世の常、そして常識だ。まあ、俺が抱えてるのは奴隷じゃないが、言うことに逆らわないという点では相違ないだろう。まして、今ホムンクルスは奴隷のフリをしているのだし。


「そうですか······」


 アメイラはほっと胸をなでおろし、そしてホムンクルスはその様子を不思議そうに眺めていた。


「さっきからなんの話をしている?」


「誰にも言わないってんならついてきてもいいぞ」


 ホムンクルスは間を置かずに頷いた。それを確認したアメイラは、もう一度釘を刺してから、俺たちを家に案内した。














「······」


 アメイラが、ただいまを言わずに戸を開けた。万が一にでも同居人がいることを察知されないための策だろう。俺達はその後に続く。


 最後に入ったホムンクルスが、暗闇の中迷わず手を伸ばし、玄関を施錠する。暗視の心得まであるらしい。


「エイラ?シオン君連れてきたよ?」


 ランプを灯して部屋を照らし、みすぼらしい内装が露わになるなか、アメイラは小さくつぶやいた。


 一瞬の静寂。

 そして、それを打ち消すような音が、隣の部屋から聞こえてきた。


 ドタドタ!!バッタン!!


 慌てて扉を開けようとして転んだのだろうか?中々騒がしい音が響く。外に聞こえてないかな······。


「う、うぅ〜」


 開かれた扉から出てきたエイラは、おでこを押さえながら涙を流している。


「大丈夫か?」


 俺の姿を捉えたエイラは、質問に答えることなく腹に飛び込んできた。

 全然大丈夫らしい。


 ていうか。こうして飛び込まれると、意外と重たいんだな。


「それはっ」


 普段は表情の変化に乏しいホムンクルスが、わずかに目を見開いた。その視線の先にあるのは、エイラの腕に押された刻印だ。

 奴隷という殻に籠もるに当たり、俺とホムンクルスは刻印についてもそれなりの情報を集めた。だから、一目でそれが何であるかを見抜いたのだろう。


「詳しいことは省くけど、ここでのことは言うな。いいな?」


「分かった。どの道、私に直接的な関係はない」


「な?平気だったろ?」


 未だに不安げな表情を浮かべていたアメイラにそう言うと、僅かに緊張感が取れたようだ。


 奴隷が俺に逆らえないとは知りつつも、やはりどこか不安だったらしい。なら連れてくるなとも言いたくなるが、まぁいい。


 アメイラはホッと溜息を付き、そしてその音を掻き消すように、エイラが意気揚々と話し始めた。


「聞いて聞いて!今日エイラね、お絵描きしてたんだよ!おねえちゃんの絵を描いて、それでお兄ちゃんの絵も描いて。そのあとは数字の練習もしたの!!どう、偉い?あれ、その女の人は誰?おにいちゃんのお友達?」


「分かった分かった。時間はあるから、ゆっくり話せって、な?」


 クリクリの目を輝かせるエイラは、話し相手が増えたことに感激を隠せないらしい。フリフリな尻尾を幻視してしまいそうなほど喜んでいた。


「うん!でね······」


 穏やかな目でアメイラがそれを見守り、慣れないことを前にホムンクルスが狼狽え、俺は笑いながら話を聞き。


 人に飢えたエイラを中心に、当たり前の光景が、人目を忍んで、ボロ屋の中で、展開された。

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