第28話 アイクとホムンクルスの連携
「なぁ、アメイラ」
「はい」
「これさ、俺って······」
「いらない子ですね」
「言うなよ?!堪えてたんだからさ!!」
そう噛み付きはするものの、俺は実力の違いを感じ、羨望の眼差しを前に向けた。
「ギャァオア!!」
ゴブリンが低く地を駆け、アイクに拳を振りかぶる。だが、アイクは冷静に対処してそれを回避。そして、大袈裟なまでに剣を構えて、その切っ先をゴブリンに向けた。
勿論、それに攻撃の意図はなく、構えや殺気は偽りのものだ。しかし、低能なゴブリンにはフェイントや誘いを見切るだけの観察眼はない。結果、アイクにばかり注目してしまったゴブリンは、死角から迫るホムンクルスに気付くことができず······
ドスッ。
僅かな血液が無機質なダンジョンを彩り、数秒と待たずにゴブリンは倒れ込む。しかし、胸より突き出た刀身が支えとなって、膝立ちの体勢で止まった。
「終わった」
ゴブリンの絶命を確認したホムンクルスは、剣を振り抜いて血糊を落とし納刀した。相変わらず、命を奪う行為に対して、何ら思うところはないらしい。
「今のは完璧なタイミングでしたね。助かりました」
「問題ない」
アイクはハイタッチを交わそうと手を伸ばすが、ホムンクルスは何をするんだとばかりに首を傾げる。連携は取れていても、コミュニケーションは取れていないらしい。まぁ、俺も人のことは言えないけど。
でもまぁ、こういうことさえなければ、二人の息はピッタリなんだけどな。さっきだって凄かった。目線や立ち位置、所作の一つ一つを、この二週間弱で綿密に確認してきたんだろう。まるで互いが通じ合うような連携でゴブリンを翻弄し、危なげなく攻撃を繰り出していたのだ。
「完成度が高いな。これでは、俺の役割もないか」
「いや、お前から盾を取り上げたら、何が出来るんだよ?」
「少なくとも、武術が残ってるな」
「ははっ。違いねえ」
ロイドとカイは、二人の練習の結果に満足して、談笑を始めている。勿論周囲に気を配ってはいるようだが、流石に気を抜きすぎじゃないか?
「なぁシオン」
「ん?なんだよ」
「お前たちも、あれくらいは出来るようになってんのか?」
「······」
助けを求めてアメイラの方を見るが、アメイラは俺と全く同じ表情を浮かべてこちらを見返していた。
お、おい?まじか?助けてくれないの?!
早速相性最悪じゃねーかよ。ま、分かってはいたけどさ。
「おい?聞いてんのか?」
ロイドが質問を重ねてくる。冷や汗がダラダラと頬を伝った。
「え?な、なぁ。アメイラ?あれくらいだったら、俺達でも出来るよな?」
「は、はいっ。あれくらい楽勝ですよ、楽勝!」
「そうか?なら、このあとボス攻略も始めるみてーだし、期待してっぞ」
そう言い残すと、ロイドはみんなの方へと戻っていった。
「アメイラ」
「はい」
「どうするよ、これ?」
「そうですね。盛大にホラ吹きましたね。どうしましょうか?」
結局解決策は見つからないまま、ダンジョンの攻略は続いていった。
「そうだ。作戦とかってどーすんだよ?」
ボス部屋の前まで攻略を終えて装備の点検をしていると、ロイドがそんなことを言った。アイクがそれに反応する。
「そうだよね。いくつか考えてはいるんだけど、勝手が違いすぎて、やりにくそうだ」
「俺達が入ってフォーメーションは変わったけど、実質ポジションに大きく関わってくんのはこいつだけだろ」
俺は、アイクとロイドの言葉を聞いて、そう返すと共にホムンクルスの背中を叩いた。ホムンクルスが少しだけ身じろぎする。
「俺はアメイラが魔物に襲われないようにするだけだけど、こいつは攻撃にも関わるからな。そこさえ注意すれば、大して問題なくね?」
「それもそうですね······」
相変わらずの敬語で、アイクが頷く。ロイドも反対はないようで、黙り込んだ。だが、賛成はするものの、いい案が浮かばないらしい。皆して口をつぐんでしまった。
「だったら、その子とアイクは一緒に行動すればいいんじゃないですか?」
「ん?どういうこと?」
「ほら。アイクとその子は、連携の練習をしてきたじゃないですか。だからそれを活かす立ち回りをするのが、一番いいと思うんですよ」
「うーん······そうだよねぇー」
しばらく考え込んだ後、アイクはゆっくりと口を開いた。
「じゃあ、こういうのはどうかな。まず、僕たち二人でゴブリン一体に集中攻撃を仕掛けて、速攻で敵の数を減らすんだ」
「待て。それでは、残りのゴブリンはどうなる?」
苦言を呈したのはカイだ。
「だから、僕たちが一体に集中出来るよう、残りのゴブリンを引き離してもらいたい。カイが一体、シオンさんとアメイラで一体。で、ロイドには遊撃をしてもらいたいんだけど、駄目かな?」
「いいんじゃねーの?お前たちでゴブリンを叩けば、十秒くらいで殺せんだろ。殺し終えれば、手が空いた二人は残った二体のゴブリンに手を出せるしな。挟み撃ちもできる」
アイクの提案の補足説明をするように、ロイドが口を開いた。確かに、それなら行けるかもしれない。
「俺もそれでいいと思う。てか、自分じゃ何も考えられないしな」
「私もそれで構いませんよ。シオン君となら、ゴブリン一体くらいは簡単に捌けるようになったと思いますから」
「異論はないな」
「それが最善であると思う」
全員が賛成した。
「よしっ。じゃあ、そろそろ行こうか」
全員が頷き、ゆっくりと立ち上がった。そして、アイクが扉に手をかけ······二層のボス攻略が始まる。
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