第16話 人助け

「行くぞ」


 剣を抜いて、音が立つのも構わずに洞窟内を走る。いくつかの角を曲がった先には、6体のゴブリンに囲まれた4人の男女がいた。

 うち一人は血を流して地面に倒れていて、その男が装備していただろう剣は、ゴブリンに奪われている。


 剣を振るっているゴブリンは剣士風の男が一人で押し留めているが、他のゴブリンは後衛の冒険者に攻撃を仕掛けている。

 そして後衛の冒険者たち2名は、剣士ほど近接戦に慣れていないようで、今にも殺されてしまいそうな様子だ。


「先に行け!」


 慌てて指示を出せば、ホムンクルスは速度を上げて走っていった。


 その様はまさに爆速一踏。あっという間にゴブリンに肉薄したホムンクルスは、その場で弾けるように動いた。


 電光石火の如き速さで攻撃を繰り出すホムンクルスに、背中を向けているゴブリンが反応できる訳がない。


 まず剣を持っているゴブリンが殴り飛ばされ、次に近くにいたゴブリンが地面に投げ捨てられた。


「おらぁあ!!」


 そのタイミングで追いついた俺は、後衛の冒険者に襲いかかっているゴブリンのうちの1体に斬り掛かった。

 それはスキルの補正も技術もない素人の一撃だが、不意打ち故にゴブリンでは回避が間に合わない。


 背中をザックリと切り裂かれたゴブリンは、奇妙な悲鳴を上げて倒れた。


「助けに来た!!」


「え―――あ。そ、それは助かります!アメイラ、ロイド!!カイの手当をしてくれ!!残ったゴブリンは僕たちで殺す!―――それで大丈夫ですか?」


 アメイラとロイドが後衛の2人だろう。で、カイは倒れている冒険者か。見れば出血が多いし、顔色も最悪だ。時間がない。


「大丈夫だ!!俺とこいつで奥の2体を殺すから手前のを頼んだ!」


 そう伝えると、俺は奥へと走った。そして1体のゴブリンに斬り掛かり、注意を完全に俺に向ける。

 その横では、ゴブリンがホムンクルスにボコられていた。


「ギャァァア!」


 俺の攻撃を辛うじて回避したゴブリンは、後退しながら威嚇してきた。


 俺はそれを無視して間合いを詰め、がら空きの胴体に剣を走らせる。


「グッ―――ギィ」


 痛みに呻くゴブリンが、俺から更に距離を取る。だがそれを追い越す勢いで地を駆けて、ゴブリンの腹を殴りつけた。


 ゴブリンの体がグラついた瞬間に、更にもう一発殴り付ける。するとゴブリンは痛みに負けるように膝を付く。

 俺はその瞬間に、首に剣を突き立てた。


 ゴブリンが絶命したのを確認してから剣を抜いた。


 ゴブリンと対峙したのは僅か数秒だった。フェイントを仕掛けてこないうえに身体能力が低いから、簡単に対処できるんだろう。


 だけど、これでは駄目だ。ボス相手にこういった立ち回りができないようじゃ、俺はいつまで経っても1人で戦えない。


「大丈夫でしたか?」


既にゴブリンを殺し終えた剣士風の青年が、剣をしまいながら声を掛けてきた。


「俺は平気だけど―――カイって人は生きてるのか?」


「はい。後少し遅かったら、ヒールをかけたとしても助からなかったでしょう。本当にありがとうございます」


「いや、いいってそんなの」


 面と向かって頭を下げられるのは久し振りだ。恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向くと、そこではホムンクルスがカイの頬をつつくという光景が展開されていた。


「お前は何やってんの?!」


「生きているかを確認していた。あと、お礼を言われていた」


「病人に触れようとするな、アホ!」


 立ち上がったホムンクルスの頭頂部にチョップをかましていると、横から声を掛けられる。


「あの、私達はあなたに助けてもらったんですよね?ありがとうございました!」


 アメイラと言うらしい僧侶風の少女がそう言うと、ロイドまでもが頭を下げてくる。


「いや、マジでそういうのはいいから」


「でも私達だけじゃ全滅してたかも知れないんです。なら、心の底からありがとうですよ?」


 笑顔が眩しい。何だこの子は。僧侶らしいダボッとした白いローブを身に着けているから体のラインは見えないが、まだ子供のように見える。スキルを得てから間もないようだ。

 ショートボブの金髪はこう、ホワっとしてる。ホワっと。愛らしさを感じさせる顔はとんがり帽子のせいで上半分が隠れているが、中々整っているようだ。


 てか、何でとんがり帽子?君僧侶だよね?


 ロイドという少年は長い杖を持っているから魔法使いだと分かるが、頭には武闘家のようなはちまきを巻いていた。うん。この人たちはいろいろと間違えてそうだ。


 カイは剣を持っていたから剣士かと思ったが、近くに大盾が落ちていた。タンクのような役割を担っていたのかも知れない。


「あの―――聞いてますか?」


 アメイラが正面から顔を覗き込んできた。


「あ、ああ。聞いてるよ。分かったからもういいって」


 さっきからありがとうコールの連続だ。正直心が持ちそうにない。


「それやり今は、一刻も早く外に出るべき。カイという冒険者の容態も安定はしていない様子」


「そ、そうだって!今は外に出るのが先決だ!」


 ここぞとばかりにホムンクルスに便乗すると、リーダーらしい剣士風の青年も納得したようだ。


「そうですね。今は上に戻りましょう」


 そうして俺達はギルドまで戻った。

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