第14話 情けない結果

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名前 【なし】


クラス【なし】


LEVEL【56】


HP【362/362】


MP【3/3】


攻【156/328】


防【132/294】


速【259/482】


賢【100/204】


魔力攻撃【2/2】


魔力防御【40/43】


ユニークスキル【なし】


スキル【近接戦闘:B】


称号

【レベル上限突破者】【チェイサー】【虚ろなる者】【ステータス上昇値補正】


―――――――――――――――――


「あの、その。······これ、現在値は低いですけど、潜在値だけを見れば、Bランク冒険者相当の実力なんですが。それに、何ですか【ステータス上昇値補正】って称号。私、こんなの見たことないんですけど」


 ホムンクルスのステータスを見て、マリエラさんは当然の疑問を口にする。

 最も、俺だってこんなの信じられない。てか、お前こんなに強かったのかよ。もう最悪ステータスの値には目をつぶるとしても、称号が頭可笑しすぎて笑えてくるレベルだ。


 人間は特殊なスキルを得ない限り、レベルが50に到達すると上がらなくなる。だがその後もたくさんの魔物を殺し続けると、レベル上限が開放されるらしい。


 【レベル上限突破者】は、それを成し遂げた者に与えられる称号らしい。


 だが、【ステータス上昇値補正】って何だ。まじでこれは見たことがない。文面から効果の予想は立てられるが、何だよこれ?


「お前、結構武闘派?」


「違う。必要に迫られて殺してきただけ」


 必要に迫られてって······あれか?こいつを造ったどこぞの研究所から逃げてくるとき、魔物の群れにでも遭遇したのか?


「はぁ、まあいいでしょう。人にはそれぞれ事情があるものでしょうし。それで、ステータスの記録も終わりましたし、どの階層に行きたいのかを教えてください」


ホムンクルスのことについてはスルーしてくれるらしい。良かった。


 それにしても、何層に行けばいいんだ?


 冒険者は、一度行ったことがある階層には、ダンジョンの入り口から転移することが出来る。

 俺は以前セリアとパーティーを組んでいた時に、3層まで攻略していた。だから1層~3層までは自由に行ける。


 解呪するための何かが何層で出現するかが分からないなら、最初から行くべきだろう。


「1層で」


「それなら問題はありません。こちらが1層の地図になります。攻略を始める前に目を通しておいて下さい」


 マリエラさんが差し出してきた地図を受け取り、取り敢えずホムンクルスに渡す。


「それでは、気をつけて行ってらっしゃいませ」


 お辞儀をしたマリエラさんに軽く会釈を返して、外に向かう。ギルドを出るときに、ちょうど入ってきたギルドマスターとすれ違った。


 ギルドマスターはホムンクルスが1層の地図を持っているのを確認すると、微かに笑った。そして俺の肩に手を置いて、


「まあ、頑張れ」


 と短く言葉をくれた。


 慌てて振り返るが、ギルドマスターは俺の方に振り返らず、そのまま職員室へと入っていった。











「おい、ちゃんと地図は見たか?」


「まだ見ていない。だけど、一度目を通せばインプットできる」


「うん。お前のその言葉は信じてない」


 何故か頷いているホムンクルスから地図をぶんどり、最後の確認をする。今から1層攻略を始めるのだから、何度見ても悪いということはないだろう。


「じゃあ行くぞ」


 ホムンクルスの腕を引っ張り、ダンジョンへと足を踏み入れる。


 一歩中に入るだけで、俺たちの周囲の環境が大きく変化した。後ろを振り返れば外がすぐそこにあるのに、外部の音が遮断されたように聞こえてこない。

 そして、外界から閉ざされたかのように、薄暗く、肌寒さを感じる。


「これが······ダンジョン」


 しばらく来ないうちに忘れていた不気味な感覚に、思わず足がすくんだ。1層は洞窟のような様相であるが、明らかにそれ以上の何かがある。


「行くぞ」


 自身を鼓舞するために先頭に立つ。そのすぐうしろをホムンクルスがついてきていた。ホムンクルスには精神的な余裕があるようで、その足取りは軽い。


「一応確認な?ここからボス部屋までは、徒歩で30分くらいだ。で、ボスはゴブリンが2体」


「それらは私の脅威になり得ない。それより、トラップの位置を教えてほしい」


「トラップは······そうだな。ここをすぐ左に曲がった所にある宝箱と、あとはボス部屋前の警報が鳴る床だ」


「警報?なぜそんなものが私の脅威になる?」


 ホムンクルスが疑問を口にした。

 おいおい、あのステータスは確かに強いけど、流石に油断しすぎてねーか?それとも、恐怖を感じることができないのか······。


「警報が鳴り響けば、そこいらの魔物が寄ってくるだろ?」


「他の魔物は、ボス部屋に入ることが出来ない。なら、さっさとボス部屋に逃げてしまえばいい。そうすれば、ゴブリン2体を殺すだけで済む」


「ボス部屋だぞ?ボスだぞ?新人とか、俺みたいな弱者は、攻略すんのにもそれなりの準備がいるの。警報が鳴ったら、装備の点検をする暇もないだろ?」


 俺の回答を静かに聞いていたホムンクルスは、しばらくしてから口を開いた。


「確かに。それは一理ある」


 そうやってホムンクルスと情報確認をしながら数分間歩いていると、不意にホムンクルスが止歩みを止めた。


「止まって。この角の先に、魔物がいる」


「嘘だろ?」


 抜き足差し足で角まで移動して顔だけを覗かせると、確かに1体のゴブリンがいた。


「お前、凄いな。俺なんかより全然役に立つじゃん」


 やべぇ。俺、ホムンクルスにも負けてるよ。こんなんじゃダンジョンの深層に行けない。


「あれはどうする?」


「倒すしかないんだが······お前の力を見てみたい。あれ、倒してみてくんね?」


「分かった」


 短く答えたホムンクルスは、剣も構えずに角を曲がってしまった。慌ててその後を追いかけると、既にホムンクルスはゴブリンに見つかってしまったようで、睨みつけられていた。


「ギャァァア!!」


 ゴブリンが牙をむき出しにして、ホムンクルスを威嚇する。だが、その様子はどうも虚勢に見えた。現に、今も一歩下がっている。


 対してホムンクルスは、一歩もその場を動かない。無表情で突っ立っているだけだ。


 数秒間の睨み合い(一方的)の末、最初に動いたのはゴブリンだった。


「ギャァァア!!」


 恐怖を振り切るように、ゴブリンは勢い良くホムンクルスに躍りかかった。地を駆ける速度を乗せたパンチを繰り出したのだ。ゴブリンにしては上等な威力、速度。だがホムンクルスはそれを手の甲で弾くと、何でもないとばかりにカウンターの右ストレトートを放った。


 それだけ。たったそれだけでゴブリンは物言わぬ死骸になり、地面を血で汚しながら吹き飛んで行った。


「終わった」


 その声には、戦闘直後の高揚感も、命を奪った罪悪感もない。どこまでも平坦だった。


「お前、まじでメチャクチャ強いじゃねーかよ」


 だから俺も、努めて平静を装う。


「でも、お前強すぎるから後衛な」


「何で?それは効率が悪い」


「俺のステータスが低いままじゃ、ダンジョン攻略が出来ないだろうが」


「薬草採集はもうしない?」


 こいつ、薬草採集好きだったのか?だったら悪いことしたな。


「これからは基本的にダンジョン攻略しかしねーよ」


「そう。分かった」


 あれ?そうでもなかったの?


 その後もダンジョン攻略を続け、歩くこと実に50分。ようやくボス部屋にたどり着いた俺たちは、装備の点検を終えて立ち上がった。


「ゴブリンは2体いるから、片方は任せたぞ?」


「大丈夫。むしろ、あなたが怪我をしないかが不安」


「多少外のゴブリンよりも強いらしいけど、まあ何とかなるだろ」


 前に1層攻略をした時は、セリアが2体とも瞬殺してしまったから、ボス個体がどれくらい強いのかを知らない。でも、ゴブリン1体に引けを取るほど弱くはないつもりだ。


 でも、正直に言えば不安だ。それでも行くしかない。


「よし、行くぞ」


 扉を押し開くと、2体のゴブリンが同時にこちらに振り返った。


 ボスが部屋への侵入者を察知できるというのは、あながち嘘ではないのか······。


 俺たちが中に入って戦いやすい場所に移動している間、ゴブリンたちは俺とホムンクルスを交互に観察していた。そして、2体ともが俺に向かって走ってくる。


「え?!は、何で!!」


「それはあなたが弱いから。敵が複数いる時、まず弱い方を叩くとあの本に書いてあった」


 初めて本の知識が役に立ったな?!


 慌てて剣をゴブリン達に向けるが、少々遅かったようだ。先に俺の元に走ってきたゴブリンが、素早く懐まで潜ってきた。そして近距離から拳を振りかぶる。


 その速度は、確かに一般的なゴブリンよりも速い。だが、まだ目で追える範囲内だ。


「おら!」


 最大限踏み込んで、迫るゴブリンの拳目掛けて剣を振りかぶった。


 これで右手を失ったゴブリンは、気後れするだろう。その隙に連撃を叩き込めば、1体は殺せ······え?


 当たると確信していた剣閃は、ゴブリンに軽々と避けられた。何とゴブリンは、手を引っ込めたのだ。


 そしてゴブリンは、再び拳を後ろまで引き絞った。剣を振り切った体勢では、それを避ける手段はない。


「がはっ?!」


 腹に鈍痛が響く。思わずその場に膝をつくと、もう1体のゴブリンがやれ好機とばかりに飛び掛かってきた。


「やべえっ!」


 慌てて飛び起き、ゴブリンの攻撃を横っ飛びに回避する。直後俺がいた場所をゴブリンの鉤爪が切り裂き、そしてホムンクルスに蹴り飛ばされて吹き飛んで行った。


「1体は任された」


 いや、よく見ようよ。今お前が蹴り飛ばしたゴブリン、もう首が折れてるよ。死んでるよ。


「悪い、まじで助かった」


「気にしないでいい。契約者が死ねば、私もすぐに死ぬ。それを防いだだけ」


 そんな風に言われると少しだけがっかりするが、それでも助けてもらったのは事実だ。あとでしっかり礼を言おう。


「ふぅ〜〜」



 大きく息を吐いて、残ったゴブリンと対峙する。さっきは一発貰ったが、もう負けはしない。


 剣先をちらつかせると、ゴブリンは雄叫びを上げて飛び掛かってきた。


『一歩下がって攻撃を回避する』


 あれ?!何でここでスキルが?鉤爪が目に入ったりするのか?

 

 取り敢えずその場から5歩ほど下がり、ゴブリンの攻撃を余裕を持って回避する。攻撃が不発に終わったゴブリンが、一瞬隙だらけになった。


「届けっ!!」


 その瞬間を狙って上段から剣を振り下ろすが、流石に下がりすぎていたようだ。ゴブリンに難なく躱され、間合いを詰められた。


「あだっ?!」


 そして、一瞬後に側頭部に激痛が走る。殴られたと気づいた時にはもう遅い。押し倒された俺はゴブリンに馬乗りにされて、上からボコボコと殴られ続けた。


「もういいでしょ?」


 一対一を所望したわけだが、死ぬわけにはいかない。俺はホムンクルスの問に、半泣きになりながら頷いた。


「っ!!」


 それを見たホムンクルスが、ゴブリンの首めがけて剣を一閃させる。少し遅れてゴブリンの頭が吹き飛び、胴体部分は俺の体の上からずり落ちていった。


 なんとも情けない結果だ。こうしてホムンクルスに助けられて、俺の1層攻略は終わった。 

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