最高のバッド・エンド

「・・・そろそろ、時間みたいね」

 ルカの体が、淡い光を帯び始めた。千秋の胸がきゅっ、と締め付けられる。

「今回は頭痛とかないらしいわ。この時間帯が一番自然に時空移動できる時間らしくて、体に負担がかからないみたい」

「そっか、よかった」

 そう言うとルカはくすっ、と笑った。



 今、言おう。


 もう会えなくなるとしても。


 この気持ちを、伝えよう。


 今までずっと言えなかった一言が、今なら言えそうな気がした。


「ルカ、誰も傷つかない選択なんて、きっとないんだと思う。でも、傷ついて、傷つけられて、だからこそ踏み出せるのかもしれない、って、今なら思えるよ」

 ルカはにこっと笑って頷く。体の淡い光が強くなっている。

「もう二度と会えなくなるかもしれないけど」

 ルカの頬には、涙が伝っていた。

 でも、今ならはっきり見える。あの時とは違う、幸せな顔だ。


「ルカ、好きだよ」


 淡い光がルカの全身をまとって輝いた。ルカは涙をふきながら、千秋をしっかり見て言った。


「千秋、私も好きよ。だーいすき」


 そう言ってルカはふふっ、と嬉しそうに笑った。


 光は徐々に薄くなり、それに合わせてルカの体も消え始める。千秋はそれが、もうすぐルカが消える合図なのか、涙でぼやけて見えていないのかわからなかった。


「ねえ千秋、最後に一つ聞かせて」

 消えかける光を留めるように、ルカが言う。

「結局バッドエンドになっちゃったけど。私の小説、なんて名前つけるの?」

 そのいたずらっぽい声に、思わず千秋も笑ってしまった。千秋は流れる涙を拭って、笑って言う。



「最高のバッドエンド、かな」



「ふふっ・・・。ばかね、千秋は。ほんとに・・・」

 消えゆく光の中で、ルカの嬉しそうな声が、優しく響いた。





「ありがとう、千秋」

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