第6章

物語の終わり

 

「――――!・・・――きくん・・・、千秋くん!」


 耳元で声がする。その声はどこか懐かしくて、耳元で響いているのに不思議と嫌な感じがしない。まどろみの中で、千秋はその声に耳を傾けていた。



「千秋くん!全くいつまで寝ているの?もう・・・もうすぐ閉館よ!」

 閉館?

 薄れていた意識が徐々に戻ってきて、その言葉の不自然さに千秋は気づいた。そしてその声の主も、ここ数日聞いていた声とは違う。千秋は急いで跳ね起きた。


 目の前には、ずっと見慣れた図書館の風景と、ちょっと困り顔で「あ、起きた」と笑いかける、佐倉さんの顔があった。

「ここは・・・?」

 状況が把握できない。少し頭がじんじん痛んで、頭がうまく回らない。自分は違う世界にいたはずだ。

 ルカやユキがいる世界に。

 だが、今千秋は小さいころからずっと座り慣れた図書館の2階の椅子に座っていて、目の前には見慣れた佐倉さんの顔がある。ということは・・・。


「戻って来ちゃったのか・・・」


 千秋は意外と冷静だった。こういう時に「○○は?△△は?」などと慌てふためくのが王道だが、いざ自分が戻ってくると、まあいつかはこうなるんだろうと思っていただけにあまり驚くものではなかった。ただ、異常な寂莫感だけが、どっと心の中を覆った。


 そう、まるで夢から覚めた時のように。


 もしかしたら、すべて夢だったのかもしれない。夢オチなんてなんともつまらない結末だけど、今まで寝ていたのであればきっと夢だったのだろう。異常なまでに鮮明で現実感ある夢ではあったが。

「まったく、千秋くん?私がいるからって閉館時間になってもぐうぐう寝ちゃダメでしょ?もお・・・。」

 天窓から差す夕暮れの光に照らされて少し目を細めながら、佐倉さんは腰に手をやって言った。

 いつもの佐倉さんだ。

 窓を見ると、外の風景は普通の一軒家、普通の舗装された道路、人通りのまばらな商店街が眼下に見えた。落ち着くというかなんというか、逆にこっちが少し物足りなく感じる。


 ここまで、大方千秋の予想通り、のはずだった。


「千秋くん、聞いてるの?さ、そろそろ閉めるわよ、仕度して」


 しかし、千秋は重要なところに気が付いていなかった。


「もうすぐ学校始まるんでしょ?しっかりしなきゃね」


 事実は小説よりも奇、であることを。

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