教室の事件

 生徒が何人かぞろぞろと出てきた。隣で白髪をふりふりとしながら必至にルカの姿を探しているユキは、「どこ?どこ?」と目をうろつかせている。まるで子どもの運動会のリレーで娘を探す母親だ。そうするとさしずめ自分は父親か、ユキの夫なら本望だな、などと思いつつ、出てくるローブをまとった生徒たちを眺めるが、なかなかルカが出てこない。

「出てこないわねえ~うちの子」

 完全に母親と化したユキを横目に見ながらも、千秋もルカの姿を見つけられない。どこに行ったんだろうか。すでにほとんどの生徒は出てきてしまったらしく、生徒も出てこない。

「どうしたのかな・・・?もうちょっと近づいてみる?」

 ユキがはらはらしたような声音で言ってくる。どんだけ心配なんだと思うが、正直千秋も心穏やかではなかった。ユキと千秋はいつの間にか隠れることも忘れて教室に近づく。


(千秋くん、私窓の扉まで届かないから代わりに中覗いてくれる?)

 ユキに言われるまま教室の中をのぞくと、なんとルカとニールが二人きりで話している。思わず千秋は頭をひっこめる。

(なになに、どうしたの)

 いや、何を焦る必要があるんだ、別に二人が話していたって何も気にする必要はないだろう。そう思っているのに、千秋の胸はおかしいくらいにきりきりと痛む。

(ねえ!どうしたの!千秋くん!)

 服を引っ張られてようやく千秋は必死の形相で問うユキに気がついた。

(いや、えと・・・、ルカがニールと話してる・・・。2人で)

(ええっ!)

 あやうく声が出そうになったユキがはっと口を押える。


 それにしても、どうして二人でいるのだろうか。すぐ頭をひっこめてしまったから何を話しているのかはよくわからなかったが、二人で話さなきゃいけないことを話しているのだろうか。

(ちっ、千秋くん、帰ろっ、ルカの邪魔しちゃ悪いし、ここまで来てるのばれたら怒られるよ)

(・・・でも・・・)

 2人は何を話しているのだろうか。男女が二人で話すようなことなんて決まっている。ニールがルカに?それとも逆?ルカはニールを好きになることはないと言っていた。でも、それは本当なのか?いざこういう場面になったら・・・。


 すると、すたすた、という足音と、二人の声が徐々に近づいてきた。

(千秋くん!)

 千秋が呆然としているなか、ユキはものすごい速さで何ごとかを詠唱し体を淡く光らせる。


 何が何だかわからぬうちに、目の前の景色がものすごい勢いで流れていった。息さえできない速さに千秋は体ごと持っていかれそうになる。耳音で呪文のような言葉が早口言葉のように聞える。

 

 と、急に目の前が真っ暗になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る