ユキの想い
白髪のきれいなボブをさらさらと揺らして、ユキは学園の門のあたりをきょろきょろしながら歩いている。
「千秋くん、ルカに見つからないように慎重にね・・・!」
そう言うユキの声がでかい。この子はいつもしっかりしているくせに、こういう時だけ天然なようだ。
ユキはまるで探偵ごっこのようにかさかさと構内に侵入し、しかしちゃんと下駄箱で靴を履いて、ルカの補講がある授業棟に入った。
ユキは壁の陰に隠れながら、ちょいちょい、と千秋に手招きをする。正直こんなことをする意味は全くないのだが、ユキが乗り気なので止めにくい。仕方がなく一緒に階段の陰に身を潜めた。白銀の髪が近くでふわりとはね、とてもいい匂いがした。
「しばらくここで待つよ。もうしばらくしたら授業が終わってみんな出てくるはずだから」
ユキがこそこそと話す。その姿は妹を心配するような姉のようでかわいらしかったが、千秋は疑問に思ったことを聞いてみた。
「ユキ」
「うん?どうしたの千秋くん」
「あのさ、どうしてユキはルカとニールがくっ付いてほしい、って思うの?」
素朴な疑問だった。このユキはずっと、ルカがニールとうまく話せるように色々と手助けをしてあげている。いくら妹のように思っていたって、かなり構いすぎなんじゃないか、と千秋は思うのだ。
ユキはうーん、と少し考えてから、まっすぐに千秋を見つめて言う。
「千秋くん、千秋くんが作者なら、ルカの過去のことも知ってるの?」
急に言われて、思わず千秋はどもってしまった。ルカに気にしないでと言われても、やはりどこかで負い目を感じてしまう。
「私ね、ルカと毎晩一緒に寝てるんだけど、その時に聞いたのよ。どうして、もしかしたら自分の辛い過去を決めたかもしれない人に、あんなにやさしくできるの?って。そしたらルカは『決められていても決められていなくても、選んだのは私よ。それに、私が辛い思いをしたように、千秋だって辛い思いをしているはず。それを比較してどっちが大変だったかなんてわかるはずもないわ』って」
千秋は胸のあたりをつままれる感覚を受けた。ルカは自分のことを人のせいにしないで、自分を受け入れてくれていたんだと知ったからだ。千秋は心の奥が熱くなった。
「ルカがそういうのなら、私は何も言わない。でもね、あの子は何でも一人で抱えすぎなのよ」
「どういうこと?」
「あの子はね、何でもかんでも『誰かのために』、って頑張っちゃう子なの。自分の欲求とかやりたいこととか、そういうことよりも、他の人を優先しちゃう。私は心配なの。ルカが本当に欲しいものを、ちゃんと手にできているのか、って。本当は私がもっとしっかりしていなきゃいけないんだけど、まだまだ頼れる人にはなれてないのかもしれない。」
ユキの笑顔が少し陰る。
「私はね、千秋くん。あの子に本当に幸せになってほしい。だからこそ、自分の気持ちに正直になってほしいんだ」
千秋は、少し寂し気な表情で話すユキの言葉を、あいまいな感情で受け止めていた。確かに、ルカは自分のことをあまり言わない。この間図書館で話した時だって、ユキや大切な人のために、って言っていた。だけどそれは、千秋の目には本心のように思えたから、ユキの言っていることがルカの望むことなのか、わからなくなった。
ユキはしばらく黙ってから、
「そうだね、千秋くんはユキとよく似ているから、もしかしたらむしろルカに共感するのかな。ルカがあなたのことをあれだけ気に入っているのも、きっとあなたがルカと似ているからかもしれない。千秋くん、どれくらいここにいられるかはわからないけれど、ルカのこと気にかけてあげてね」
そう言ってユキは微笑んだ。
「ルカと僕って、似てる?」
正直腑に落ちない。むしろ正反対のように思えるのだが。
「うん、似てる。うーん、どこがっていうか、考え方のもとになっているところが似てるっていうのかな」
「考え方のもと?」
「そう」
千秋はユキが何を言いたいのか、いまいちよくわからない。確かにルカと悩んでいることは似ていたが、それがそのまま考え方まで似ているという風になるのだろうか。むしろ考え方っていうところで見たら正反対だというのがルカと千秋の共通意見だった。
「まあ少なくともさ、私はルカにもっと自由に生きてほしいの。だから、ルカのためにはなんだってしてあげたいって思ってる。もちろん、恋愛もね」
千秋は、ルカに以前恋愛は出来ないという話を聞いていたので複雑な心境になったが、ここで千秋がユキにルカの気持ちを言うべきではないだろう。千秋はこくん、とうなずいた。
「さて・・・。それにしても授業長いね・・・。あっ終わったみたい!」
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