白昼の突撃

「授業が終わったら時計塔の鐘がなるから。そしたら廊下で話しかけるから、動向を電話で教えて」

 千秋はニールの動向を携帯でルカに知らせる役割である。この世界に携帯なんてあるのかと疑問に思ったし、何なら魔法が使えるのに携帯があるのかよとツッコミたくなったが、確かに小説でもスマホが出てくる小説は多い。自分の世界と同じく、こっちの世界でもスマホというのは便利なものなのだろう。

 千秋の座っているベンチから見える教室からは、ざわざわという騒音と共に何人かの生徒が出てきた。正直モブたちの顔は書いてないからわからないが、ニールの容姿はしっかりととらえることが出来た。

 赤髪で黒い目。背が高く、大きなローブがこれでもかという具合に様になっているその男は、たしかに千秋が小説で書いたニールだった。ただ異なる点は、千秋から見ても相当なイケメンで、ちょっとこの場に似つかわしくない風貌だったことである。

(あいつ僕が作ったキャラのはずなんだけど・・・、イケメンに過ぎないか?あんなかんじにした覚えはないんだが」

 適当に「イケメン」とか小説に書いてしまったからだろう、千秋の脳内イメージの3倍くらいイケメンに仕立て上げられている。

 そのニールは仲間と談笑しながら出ていく。千秋はすかさず教えられた番号に電話をかけた。

「出てきたよ、いま数人の友達と廊下を歩いてる」

 なんだか刑事になった気分だ。さっきの眠気は吹き飛んで、千秋は少し楽しくなってきた。

「わかったわ。じゃあその数人をなんとかして」

「え?なんとかするって何」

「だから、なんとかしてニール君を1人にして!」

 そう言って電話はぶつりと切れてしまった。

「え、何とかするってどうするんだよ・・・?」

 かといって考えている時間はない。このままではニールは次の授業の部屋に向かってしまう。千秋は先回りして窓から教室に入ると、ニールたちのもとへ猛スピードで駆けた。はいいが、それからどうするか考えていなかった。だが、とにかくニールとその他モブをひきはがすことが先決だ。

(もうどうにでもなれ!)

 突撃してくる千秋に驚いているニールたちの集団にすれ違いざま、千秋はぱっとニールの腕を取りそのまま走りぬけた。

「ちょっ、ちょっと、君、どうしたんだ?!」

 ニールの声が後ろから響いてくる。ガタイといい魔法といい、正直長期戦になったらニールに軍配が上がる。

「いいから、とにかく来てくれ!!頼む!」

 それだけ言って、さっき授業があった教室目指して千秋は走った。背後を振り返ると、ニールの困った顔と、置き去りにされて呆けているモブたちの顔があった。

(よし・・・!)

 目の前に教室が見えてくる。千秋はそこまで走りぬけたところで、ニールの腕をぱっと離し、その勢いのまま近くにあった階段に向かって突撃した。呆けているニールをそのままに、千秋は階段を駆け上がり、階をまたいだところで立ち止まって壁によりかかってスマホに手をかけた。

「ハァ、ハァ・・・、教室の廊下・・・ニールがいるから・・・あとはがんばれ・・・」

 それだけ言って、千秋は壁にうなだれた。普段走ることなどない千秋にとっては、今回の闘いはなかなか激しいものだった。


(何とかなったな・・・)

 まだ息が整わない。千秋はげほげほとせき込んだ。

 すると、どうやらスマホの電源を切り忘れていたらしく、スマホから声が聞えてきた。

「えっ?!教室の廊下?!そんなこと言ったって・・・。どうしようでも早く行かないと・・・」

 ひとりごとがぶつぶつと聞こえてくる。ルカ自身混乱して電話を切り忘れているようだ。教室のドアが開く「ガラッ」という音がして、ルカの声がスマホから聞こえてきた。



「ニ、ニールくん・・・」

「ああ、ルカさん、いや今さ、知らない人に腕つかまれてここまで連れてこられて・・・あれ誰だったんだろう」

 ニールの声が聞えてくる。どうやら2人で話させるというミッションはクリアしたようだ。

「だ、だれだろうね・・・・?そ、それよりさ、今度の週末なんだけど・・・」

 お、いいかんじじゃないか。功労者に向かって誰だろうねは解せないけど、まあそれはあとでいい。

「そ、その・・・、よかったら」

「ああ、週末の授業の話?いやー週末に授業入れるなんて教授陣もひどいよな」

「ふえっ?!」

「え?」

 思わず千秋まで声をあげてしまった。だってルカは週末は休みって・・・。

「あれ、ルカさん覚えてない?こないだ休講になった白魔術の補習授業、週末使っていっぺんにやるらしくてさ、何も週末にやることないよなーって話で・・・。あれ、ルカさん?どうかした?」

「へ?い、いやいや、何でもないの!そ、そうよね、まったく週末にやるなんて何考えてるんだかわからなくてほんとに」

「ははっ、そうだね。と、そろそろ僕も行かなくちゃ。ルカさんも次の授業頑張ってね」

「う、うん・・・。ばいばい・・・」


 千秋は頭を抱えた。

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