第4章

作者の恋愛指南

「だあから!!そんなこと言えたら苦労しないでしょ?!バカなの?!あんたホントにわたしの作者?!」

「そんなこと言えないのに告白なんてできるわけないだろ!!」

「あんただってそうじゃない」

「・・・」


 ジョン大教授に会ってから1週間が経とうとしている。

 ジョン大教授に会った後、3週間の時間で何をするか、ということを話し合った。かといって何かを出来るわけでもなく、特にこの世界で何か世界を救わなければならないほどのことなんてないので、正直やることがなかった。ちょっと魔法の使い方も教えてもらったけど、違う世界からきたせいなのか全くもって使えない。これから異世界に飛んでしまう系のライトノベルにより一層現実味を感じなくなってしまいそうである。


 まあ気長に待つか、と千秋は思っていたが、ある時ルカが急に聞いてきた。

「ねえ、千秋、こないだのことなんだけど・・・」

「こないだのこと?」

「あの・・・、私の好きな人知ってるって話・・・」

「ああ」

 おばあさんとかとは違い、ルカの好きな人として小説に登場させたニールも、ちゃんとこの世界にいたようだ。学園に着く前に話していた時の反応からして、ルカの好きな人という設定はここでも変わらないようだった。

「うん、知ってるよ」

「その、知ってるってことは、ニール君の・・・、その、タイプとかも知ってるの・・・?」

「タイプ?」

「だから!どんな子が好きかってこと!」

 どんな子が好きかって言われても、そもそもルカとニールをくっつける設定で考えていたからあんまり考えたことはない。

「まあどんな子が好きかっていうのはわからないけど、どういう人物かっていうのはある程度は考えたかなあ」

 すると、ルカは千秋の肩をぎゅっと握り、顔を真っ赤にして、絞り出すようにこう言った。


「ねえ、わたしの恋愛を手伝ってくれない?」




 まあそんなわけで、一応作者としての責任もあるので、ここ数日はルカの恋愛を手伝うためにたまに学園に行ったり、ユキと一緒にルカの相談に乗ったりしていたのだが。

 このルカという女の子は、(自分でツンデレキャラにしておいて言うことではないかもしれないが)ものすごい恋愛に不器用で、今のところ全く進展がないのである。最初の頃に比べてルカもだいぶ千秋に打ち解けてきたが、その分ことあるごとに突っ掛かってくるし、ツンデレ属性というのはツン1デレ9くらいじゃないとかわいいと思えないなと千秋はげんなりしていた。

 

 そして今もユキが鍋を作ってくれている横で言い合っているのである。

「わたし知ってるんだからね!わたし七瀬ちゃんに一緒に帰ろって声かけようとするけど声かけられない~なんていうプラトニックなシーン書いたもん!あれだけ臆病な主人公に、私が意見される筋合いなんてない!」

「別に僕のことは関係ないだろ!大体『週末遊びに行こう』の一言も言えないのに、『好きです』なんて言えるわけないだろ!」

「すっ・・・、好き?!ばかじゃないの?!この!!」

「ぐふっ」

 腹パン一撃でずるずる、と千秋は崩れ落ちる。

「あーもお、またルカ千秋くんのこと殴って・・・。千秋くん、大丈夫?」

 鍋をぐるぐると回していたお玉を離して、ユキがぱたぱたと駆け寄ってきた。

「うん・・・、大丈夫・・・」

 千秋はなんとか起き上がる。

「ルカ、千秋くんはあなたの小説の通りひ弱な体なんだから、あんまり強く殴っちゃだめだよ」

「ユキさん、たまに辛辣なこと言うよね・・・」

 ルカはちょっと申し訳なさそうにちらっちらっとこっちを見ながら言う。

「そうね、わたしは千秋の小説通りものすごいパワーの持ち主だから、ちょっと手加減してあげないとね」

 我が小説の主人公ながら本当にめんどくさい女の子だ。


「それにしてもルカ、千秋くんがせっかく色々考えてくれたんだから、ちょっとは勇気出してもいいんじゃないの?」

 ユキがなだめるような声で言う。ルカは一生懸命に鍋のきのこをすくっていたが、

「う」

 とその動きを止めた。

 ルカはべつに人当たりが悪いとか、そういうわけではない。この1週間ずっとルカと一緒にいて見てきたけど、むしろどんな人にも優しいし、もともと人を惹きつける人柄なのか周りにはいつも友人であふれている。しかし、こと恋愛になると急に臆病になるのだ。

「わかってるけど・・・」

 ルカはソファに座り直した。

「なんか、いざとなると声が出ないのよ・・・。頭でわかってはいるんだけどね」

 さっきまで言い合っていたが、その気持ち自体は千秋には痛いほどよくわかる。なぜ言えないのか、自分でわからない。ただ、好きな人の前に立つと、何も言えなくなってしまうのだ。

「まあ、ルカはルカのペースでやればいいと思うけどね。とりあえず、明日ニール君と授業同じなんだから、その時にどうするか考えてみよっか」

 優しい声でユキは言い、ルカはこくん、と頷いた。


 こうして客観的に人の恋愛を見ていると、恋愛っていうのは本当に難儀なものだな、と千秋は思う。相手が自分のことをどう思っているのか、それを知る方法は、想いを伝えるか、想いを伝えられるのを待つか、の2つだけだ。

「明日ニール君と同じ授業になるのは午後の授業でしょ?私明日は学校休みで買い物しなきゃいけないから、午後は一緒にいられないの」

 ユキがそう言うと、ルカは「じゃあ、明日はやめにしようかな・・・」ともしょもしょ言っている。

「でも、そうやっていつまでも先延ばしにしてるといつか誰かに取られちゃうかもよ」

 ユキは心配そうに言う。確かに、ルカとユキから話を聞く感じ、明らかにニールはこの世界でも完璧イケメンだ。人気がないはずがない。

「たしかに・・・そうよね・・・」

 いつもぶれないルカは、こと恋愛の話になるとぶれっぶれだ。

「あ、じゃあこうしようよ」

 ユキが手を叩いて言う。

「千秋くんが明日、ルカについていってあげてくれない?学園の講義は受けられないけど、明日はルカも授業1つだけだし。そこでアドバイスしてあげて!」

「「え」」

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