第2章
目の前の女の子
千秋は、混乱していた。
事態がつかめない。
さっきまで自分は図書館にいた。あのスペースには誰もいなかったはずだ。だが、千秋の前には、千秋が書いている小説の主人公、まさに『ルカ』そのものの女の子が座っているのである。
当の本人は、よほど驚いているのか開いた口が塞がらない、といったようにあぜんとして目を丸くしていた。
千秋は、こういった状況で適切に対処できるほど「場慣れ」した人間ではなかった。ましてや、こういう時に「やあ」とか言えるほどの力量を持っているわけもなかった。
「ルカ・・・?」
声をついて思わず出た第一声は、それだった。
こういった状況の際に、考えられるパターンはおそらく二つである。
1つは、異世界転生モノ。正直ラノベチックで多分にファンタジー要素が詰まっているが、まああり得ない話でもない。
もう一つのパターンは、単純な勘違い、ということである。千秋は小説の読みすぎと書きすぎで多少精神に故障をきたしており、たまたま目の前にいた人物を自分の小説のキャラにかぶせてしまった、という悲しき結末である。おそらくこちらの方が可能性としては高いだろう。
千秋自身、自分の状況を安易にファンタジックに考えないくらいの理性はあった。思わず口をついて「ルカ?」などと聞いてしまったが、それが勘違いであろうことを一瞬のうちに悟ったし、頭の中も徐々に平静を取り戻しつつあった。
それだけに、千秋は間をおいてその目の前の少女が発した言葉を、予測することが出来なかった。
現実の世界というのは、往々にしてパターンを裏切る。小説の世界に書いてあることなど、所詮現実の模倣でしかないのである。
小説は、現実よりも遥かに奇なのだ。
「千秋・・・?」
その目の前に座っている可憐な少女は、澄んだ声で、しかしつっかえるようなたどたどしい口調で、そうつぶやいた。
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