第2話 100%フレッシュジュース。そして風船ガム
※お詫びと報告※
諸事情により、第一話を一部修正しています。三話投稿前から続けて読んでくださっている方は、できれば第一話を再読して頂けると有り難いです。
※お詫びと報告※
【あなたは<殺し屋>の役割に選ばれました】
――自分のゴーグルに表示された文字に、俺は言葉を失った。
殺し屋? 役割? そんなルール説明されなかったが、質問する訳にもいかなかった。何故ならそのすぐ下にこう書いてあったからだ。
【他の方に<殺し屋>である事が知られた場合負けとなりますのでご注意下さい】
これでは質問しようにもできない。俺は仕方なく、その下に続けて書かれている文章を読んでいった。
【あなたには、3番の席に座っている方を殺害して貰います。手段は問わず、反則になる方法でも構いません】
3番。今気づいた。俺たちの座っている席には番号が振ってあったのか。俺が座っている席は1番で、右隣が2番。そこから時計回りに番号が進み、さっきのギャルが座っているのが10番。今までに出てきた奴らの席番は、チャイナが5番、秘書が6番、麦わらが8番だ。そして3番、つまり俺の2つ右隣に座っている、俺が殺すべき相手は――見覚えがある。あの時の花売りだ。
【なお、あなたはこの殺しの成否によってゲーム終了後に賞金、または罰金が発生します。この賞金・罰金はゲーム上の獲得賞金額に影響しません。殺しが成功した場合は1億Sの賞金、失敗した場合は5000万Sの罰金となります。ただし、射殺時の賠償金の3000万Sは支払う必要がありますのでご注意下さい。また、反則や死亡などで殺しを遂行できなくなった場合も失敗扱いとなります】
つまり本来のゲームの賞金とは別に、成功すれば1億から3000万を引いた7000万を得て、失敗すれば5000万を失う訳か。こんな役割と、更に殺される役割。これがランダムに決められてるとしたら、とんでもない理不尽だ。が、俺はもう降りられない位置に居る。進むも地獄、退くも地獄――なんてもんじゃなく、退けば破滅が確定する。背水どころじゃない。崖っぷちだ。
「あの――皆さんに提案があります!」
そんな事を考えていると、花売りが突然声を上げた。ああ、ルール説明が終わったから喋っても良いのか。俺がゴーグルの文字を読むのに集中している間にどうやら場は進んでいたらしく、マリアは既に中央から離れ、俺達の座っている場所から少し離れた場所にある高級そうな椅子に腰掛けていた。そしてチャイナが立ち上がり銃を手にしているのを見ると、ゲーム自体も既に始まっていたのだろう。花売りは開始と同時に声を上げた事になるが、いずれにせよこの状況で提案とは。
「私、思いついたんです。皆が死ぬ心配なく、皆で……多分、計算上は平等に、皆が賞金を手にする方法を!」
嫌な予感がする。それじゃあ俺は駄目なんだ。死ぬ心配が無いということは、殺すチャンスも無いということ。だが、ここで下手に反対するわけにもいかない。そう思いながら一応はその方法とやらを聞いてみる事にしたが、やはり俺の予感は当っていた。
「全員、即ドロップするんです。ドロップ失敗になって300万を失いますが、チャレンジャー一人につきターゲットは1人ですから、皆がチャレンジャーに必ず選ばれるようにターゲットにも必ず選ばれます。ですから、基本は差し引き200万の賞金を手にできます。もちろん1発目がアウトでドロップ成功になっちゃう場合もあります。その時はターゲットが損をする事になりますが、あくまで機会は皆に平等ですし2周目で調整する事もできます。何にせよ、普通にやるより反則して罰金になっちゃう可能性も射殺が発生する可能性も低いと思いませんか?」
花売りの言葉に、周囲は同調し始めていた。はっきり言ってしまえば穴だらけの作戦だし、何よりこれをやられてしまうと俺は目的が達成しづらくなって非常に辛いのだが、周りの連中はそうではない。むしろ、死んだり借金を背負うかもしれない、という恐怖心の前に垂らされた蜘蛛の糸に、一人、また一人と順番にしがみついていった。
「そ、そうよね。ルール上は何も問題ないし!」
銃を持つチャイナがまずは同意する。
「っしょ……こんなんやってらんねーし……」
いつの間にか新しい制服に着替えて意気消沈しているギャルもそれに追随。
「そうですね……それに正直、恫喝されて腹が立っていたところです」
秘書もメガネを直しながら賛成。
「あ……あはは。私も乗っかっとこうかな~……」
麦わらも作戦を肯定し、ついに半数が乗った。その後はもう淡々と進む。
「そうねぇ。主催者サンには悪いけど、このルールじゃこうなってもしょうがないわね」
俺の右隣、2番に座る魔女風の美少女――魔女と呼ぼう。
「そうですねぇ、これで皆儲かるなら万々歳でしょう」
花売りとチャイナの間、4番に座る日本人形みたいな格好の美少女――大和撫子っぽいし撫子とでも呼ぶか。
「ぼくも賛成~……」
秘書と麦わらの間、7番に座る猫のきぐるみパジャマみたいなのを着た美少女――まあ、着ぐるみ。
「――そうね。では、私も賛成で」
麦わらとギャルの間、9番の雪女。こいつは雪女以外に形容のしようがない。
「そうだな……いいと思う」
そして、本心では全く良いと思ってない俺。結局、全員がこの作戦に乗っかる事になった。
まずは現状チャレンジャーに選ばれているチャイナがドロップ。失敗して-200万、この時ターゲットだった魔女が+500万。続いて俺のチャレンジャー番。ターゲットはギャル。ここ1回は特に逆らわず、即ドロップ。-200万。ギャル+500万。その後、魔女チャレンジャーで撫子ターゲット、撫子チャレンジャーで花売りターゲット。ここまで全員、適当な終了宣言以外は無言。
「うっわぁ、重っ……ボクこんなのはじめて持つよ~……」
久々に発せられた言葉は、着ぐるみの美少女からのものだった。場の雰囲気を壊すような間の抜けた声に本人の見た目やのっそりとした動作も相まって、見る限り数人が顔を綻ばせる。
「ん~……」
着ぐるみは興味深そうに銃を眺める。今までの行動や着ぐるみ自身の雰囲気から、単に銃に興味があるだけだろう。そう思っていたが――
「ね~。 アウト? セーフ?」
着ぐるみはそのまま、自分のターゲットである秘書に銃口を向ける。
「へ、へっ……? あの、即ドロップするって話では……」
「いいから。 どっちにしろ撃つつもりだし、アウトなら正直に言わないと頭フッ飛ぶよ~」
ほぼ全員が固まる。着ぐるみの声は、人に銃を向けるその姿とは裏腹に今までの間延びしたそれと変わりなかった。
「あっ……あ、アウト。アウトです!」
「ダウト」
カチリ。
ダウト、なんてルールは無いが、どうやら秘書が咄嗟に嘘をついたのを見抜いたのだろう。銃は発射されず、ターゲットは次に移る。
「くっ……」
「見ての通りボクはどっちでも撃つからさ~……しょーもない嘘、つかなくていいよ?」
着ぐるみはそう言うと、次は俺に銃を向けてきた。表示された文字は――SAFE。
「……セーフだ」
「おぉ、ご協力ありがと~」
着ぐるみは相変わらず間延びした声でそう言いながら、にへら、と笑い引き金を引く。当然、弾は発射されない。
「ちょ、ちょっとまって下さい! 皆で協力しようって……」
「ん~、ごめんねぇ。 詳しくは言えないけど、ぶっちゃけそういう訳にはいかないんだよね~……」
花売りの言葉を遮りながら、着ぐるみは曖昧な笑みを浮かべた。
「さて、3発目か~。 運次第だけどそろそろだねぇ?」
そう言って次に銃口を向けられた麦わらは、俺から見ても判るぐらいガクガクと震えていた。これは、どう見ても――
「あ~……わっかりやすいな。 まあ、運が悪かったと思って諦めてよ」
「あ、あ、あ……ま、待っ、待って、待って下さい。待って! やめて、お願い! 撃たないで……!」
一瞬だった。
轟音が響いたかと思うと麦わら帽子が吹き飛び俺は思わず目を背け周りの連中も悲鳴を上げそれでも着ぐるみはへらへらと笑ったままで俺は見るのが怖くてただ床を眺めて周りの悲鳴がざわめきに変わって着ぐるみのへらへら笑いがクスクス笑いになったかと思うと坂道を転がっていくようにだんだん笑い声が大きくなってゲラゲラと笑いだしてそれに反比例するかのように周りはだんだん静かになっていって俺は見るのが怖くて人を、人に、人が、死んだ。人が死んだ。眼の前で死んだ。死んだんだ。死んだんだろう?
「あーあ……」
着ぐるみのが突然笑うのをやめて真顔でため息をついた。俺が眺めていた床に流れてきたのは、俺が思っていたような赤い液体じゃなくてオレンジ色の――甘い匂いの。何だ?
「楽しいかなって思ってたけど、それほどでもないね」
着ぐるみはそう言いながら、ゴーグルを外す。その瞳は澄み切った、夏の空を思わせるようなきれいな青色。その眼を見て安心、いや、油断したのか、流れてきたのが血に見えなかったからというのもあって、ふと麦わらの方を見て――後悔した。
「うっ……」
結局のところ、麦わらは死んでいた。と、思う。なにせ頭部が無くなっていた。ただし周囲に巻き散らかされていたのは脳漿や眼球ではなく、砕けて弾け飛んだ柑橘系の果物の果肉だった。とすると、流れているのはオレンジジュースか何かだろうか。なるほど、どうやら俺たち美少女は、死ぬ時も美しく甘くなければいけないのか。馬鹿げてる。
そのまま誰も喋らなくなり訪れた静寂を、1つの声がかき消した。
「……ご苦労。貴様は務めを果たした」
――マリアだ。そして務め、という言葉で、俺はすべてを察した。
「うーん。この役割、ちょっと簡単じゃないかなあ」
務め、役割。周囲を見渡すと、その表現に困惑する者も居れば、納得する者や全く動じていない者、あるいは先程の騒動ですっかり腰が抜けそれどころではない者と反応は様々だ。だが1つ言えるのは、少なくとも役割を持っていたのは俺と着ぐるみ、そしてそれ以外にも誰か――もしかすると全員かもしれない。
「さて、ところで――死んだ8番と殺した7番以外に2人、脱落者が出たようだな」
マリアの言葉を聞いてはっとした。今の騒ぎで、麦わらの隣に座っていた雪女が席から転げ落ち、また秘書がその場から逃げようとして席を立った。これは最初に説明していた反則行為の"チャレンジャーになった時以外に席を立つこと”に該当する。自分から逃げた秘書はさておき雪女は巻き込まれる形なので少々可哀想だとは思うが、恐らくこういう脱落も見越したルール設定なのだろう。
少しの間をおいて、茫然自失の雪女、帰れるなら何でも良いと喚く秘書、そしてすっかり黙りこくってしまった着ぐるみが赤服に連れられて退場し、首なし死体となった麦わらが運ばれていく。10人しか居なかった参加者が、いきなり4人も減って残り6人になってしまった。残ったのは1番席の俺、2番席の魔女、3番席の花売り、4番席の撫子、5番席のチャイナ、そして10番席のギャル。その中でまだチャレンジャーになってないのは花売りとギャル。ターゲットになっていないのはチャイナ。賞金は、俺とチャイナが-200、魔女と撫子が+300、花売りとギャルが+500。
そして、次のチャレンジャーはギャルになった。ターゲットは当然まだ0回のチャイナだ。ギャルは反則にならないようにまず銃を取り撃鉄を起こした後、少し間を開けてこう言った。
「……あのサ。さっき何か言ってたじゃん? 役割とかなんとかさ…… あれって何なわけ? 知ってるやつ居るっしょ?」
ギャルが銃を持ったまま、他の5人に疑いの目を向ける。その口ぶりからしてギャル自身は役割を持っていないようだが、ブラフと言う事もありうる。もっとも、そんな高度な駆け引きができるようには思えないが。
「つか、不公平じゃね!? ルールで説明してねーじゃん! なぁ、役割って何なンだよ!」
ギャルは息を荒げながら、ターゲットのチャイナに目もくれずマリアに食って掛かる。あんな化け物に逆らうとは、勇気があるのかバカなだけか。
「質問には一切答えん。説明の義務も無い」
結局、マリアにそう冷たくあしらわれたギャルは舌打ちした後、数秒間机の前をうろうろ歩き――
「あれ? てかこれ、アタシがこのままにしてりゃゲーム続行不可じゃね!?」
――バカな事を言いだした。が、確かに。ルールを思い返してみれば、この行為は反則ではない。
「アタシ天才じゃね? こんなバカらしいゲーム付き合ってらんねーし! ざまぁ~」
ギャルはそう言って、自分の席に座った。銃を持ったまま。俺たちは勿論、赤服やマリアまでも、誰一人その行動を諌めない。アナウンスも流れずない。俺は何を言い出していいのかわからず、黙りこくる。他の参加者も、多分そうだったんじゃないかと思う。
「……ねぇ。このゲーム、時間経過じゃ終わらないわよね?」
再び訪れた沈黙を破ったのは、魔女の一言だった。確かに、行動を起こさずにずっと待つのはルール違反ではないが、ゲームが終わらないと俺たちは解放されない。そして、それだけじゃない。時間が長引いた時に食事が与えられるのか、トイレなんかで立ちたくなった時でも反則は適応されるのか。色々な問題が浮上してくる。
「ちょっと主催様? 不備なんてものではありませんよこれは。 どうなさるんです?」
撫子が食って掛かるが、マリアは知らぬ顔を通している。本当にこのままこのバカな待ちを放置するつもりなのか? そんな事を考えていると、赤服が一人部屋に入ってくる。赤服は手に電話機のようなものを持っており、マリアの元までそれを持っていく。マリアは驚く様子もなく、淡々とそれを受け取って電話先の相手と話を始めた。
「……わかった」
そして、その一言で電話を切る。何を話していたのかはわからないが、なにやらギャルの方を見ながら話していたようだった。それに気付いているのかいないのか、ギャルはその様子を気にしている。
「10番。今、貴様のオーナーから電話があった」
「10……って、アタシ? 電話? は? 何?」
オーナー。そういえば、俺達は誰かに飼われてるのか雇われてるのか、とにかくオーナーという存在が居る。俺でいうとルーシアのような。ともかく、ギャルのオーナーから電話があった、と。そう聞かされ、ギャルは完全に困惑していた。
「――貴様を売却するそうだ。稼ぐつもりのない“ドール”はいらん、とさ」
「は……あ?」
その言葉を聞いて、ギャルは一気に青ざめる。――なるほど、そうか。マリアが何も言わなかったのは、これが予見できていたからだ。もしくは、他にも解決方法があったのかもしれないが。しかし、よくよく考えてみれば当たり前だ。稼がせる為に出しているとしたら、稼ぐつもりもなくゲームを破綻させるような手駒はいらないだろう。“ドール”という単語が気になりはするが、今はそれよりも気になる事がある。
「ば、いきゃく……? あ、アタシ、どうなんの……」
マリアに売却されたギャルが、どうなるか。
「私の手駒は赤服が腐るほど居るからな。さて、貴様程度で腹の足しになるかどうか」
腹の足し。その言葉を聞いて、いや、さっきの麦わらの死に様を見た時から、1つの予感はあった。俺たち美少女は――食料にもなるのではないか、と。
「折角だ。新鮮なうちに頂こうか」
そして次に目に飛び込んできた光景に、俺は完全に固まってしまった。そう、やけに天井が高いとは思っていたんだ。意識はしてなかったが。だが、まさか。
「ひっ……!? で、でっ……」
ギャルは見上げていた。自分の数倍も大きくなったマリアを。その姿はもう幼女ではなかった。造形こそはそのままだが、全身が赤一色。例えるなら、マリアの影をそのまま赤色に塗りつぶしたかのような姿になっていた。そして為す術もなく、その大きな手で掴まれたギャルは――上半身を口の中に突っ込まれた。同時に響く悲鳴。食われつつあるギャルの壮絶な悲鳴と、それを見ている俺達の悲鳴が混ざり合っていた。現実離れした恐怖に思わず席から転げ落ちそうになるが、それは反則負けになってしまう。目を逸らそうかと思ったが、俺の中の男がある一点に俺の視線をひきつけて離さない。こんな状況で何をバカな、と自分でも思ったが、俺はギャルの短すぎるスカートから伸びた健康的に焼けた両脚がじたばたと暴れるのをしっかりと見てしまっていた。勿論、その二本の健脚の間で丸見えになっているショッキングピンクの布もだ。
「ぎゃっ――ぶえっ、がっ」
マリアの口がもごもごと動いている。咀嚼されている。が、クチャクチャという音とギャルの苦しそうなが響くだけで、想像していたようなグロテスクな事は起こらない。血しぶきは飛び散らず、ギャルは恐らく生きて脚をばたばたとさせたまま、徐々にマリアの口の中に仕舞われていく。そして完全に口の中に入っていくと、マリアは徐々に小さくなっていき元の見た目だけなら愛らしい赤いドレスと金髪の幼女へと戻っていった。その口はまだもごもごと動いており――止まったかと思うと、ぷく、とピンク色の風船のようなものが膨らんだ。まさかとは思うが、ギャルはフーセンガムだったのか。何を言っているのか自分でもわからないが、ともかくギャルは食われて死んだ。それは間違いなさそうだ。
「ん。」
そうして暫く咀嚼したり膨らませたりした後、マリアは隣りにいた赤服が用意したティッシュにガム――いや、ギャルの残骸を吐き出した。遠目に見えたそれは、ただの味の無くなったガムだった。さっきまで元気に喚いてたギャルだったものが、今、ティッシュに包まれゴミ箱に捨てられた。誰にも死を悼まれる事無く、それどころか、マリアの栄養になる事すらなく。そして、最初からギャルなど居なかったかのように、ただ普通にガムを食べた後のように、いつもの、いや、心なしかいつもより軽い口調でマリアは言った。
「……さて、ゲーム続行だ。」
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