第4話 20180709 核爆発


ゆる畑キャン三郎>というわけで自己紹介はこんな感じ。


文図てぷら>わかりました(`・ω・´)ゞ


横浜パシ彦>たぶん、今覚えなくても良いと思うよ。


江戸川月>というか覚えられなくて当然。


ファミチキ茶漬け>ころころ名前変える人もいるし。


江戸川月>いやお前が言うなよ。昨日は違う名前だっただろお前。


ファミチキ茶漬け>昨日の名前は「ナッツトゥーユー」でした。今日食べたものの名前を付けるようにしてる。


ゆる畑キャン三郎>アイコンもその食べ物の写真に変わるよね。


文図てぷら>おいしそうです!(*^^*)



 準文芸部員たちと文図の初顔合わせ、じゃなくて初顔合わせない会議は和やかに進んだ。

 マイクを持っていない文図に合わせて、チャットで会話は続く。

 途中で追加二名の入室もあり、これで準文芸部員はオンライン上ですべて揃った。

 自己紹介するだけで日付をまたいでしまったが。



ゆる畑キャン三郎>本名と、ハンドルネームと、あとペンネームも別に持ってる人がいるから、混乱するのもしょうがない。まだ顔も知らない段階で3つも覚えるのは無理。


江戸川月>だから本名でやりましょうって言ったじゃないですか。


横浜パシ彦>小説好きの性で、ついつい難読漢字を名前に使っちゃう人もいますし。


江戸川月>いや俺なんて可愛いもんだよ。現実の方がもっとすげー名前の人いるんだって。


ファミチキ茶漬け>あーこないだの地震のときの。NHKのディレクターさんね。


文図てぷら>なんですかそれ?(?_?)


ファミチキ茶漬け>おとといの地震のとき、夜中だったじゃん? あれの


江戸川月>地震速報のニュース読んだディレクターさんの名前がすげー難読だったんだ。


ファミチキ茶漬け>あー!


ファミチキ茶漬け>こっちが先に打ってんだからさー! とるなよー!


江戸川月>タイピングの速さの勝利だね。


ファミチキ茶漬け>くっそー! フリック入力なら負けないのにー!


文図てぷら>すごい名前ですね\(^o^)/



 しばらく文図とチャットしてわかったのは、こいつ顔文字を適当に使ってんなーということだった。その顔文字、ネットスラング的にはネガティブなやつだし。

 あとなんか、オタサーの姫になりかねん危うさがあって怖い。現実ではかなり無表情で無口な奴なのに。

 ……っていうか俺をはじめ準文芸部全員、まだ文図の声すら聞いたことがないというのに、完全に浮足立ってしまっている。

 チャットという文字媒体は、会話を客観的に振り返ることが出来るメリットがあると思っていたが、これはデメリットでもあるな。姫を取り囲んでひょうきんアピールする取り巻き感半端ない。ログを遡ると恥ずかしい。



ゆる畑キャン三郎>文芸部は毎週金曜日に定例会というか読書会があって、その日だけは準文芸部は遠慮することになってるから。


ファミチキ茶漬け>つまり、それ以外の時間は部室を使ってもOK!


横浜パシ彦>というか部長は我が物顔でよくいますよね。昼休みとか。


ゆる畑キャン三郎>文芸部員と準文芸部員が鉢合わせしても気まずくないようにという心遣いがわからんのかね君たち。


江戸川月>いや別に文芸部員と仲悪くないですし俺ら。ただ単純に、小説が書ける人と書けない人でなんとなく棲み分けるようになったっていうか。


ファミチキ茶漬け>あたしみたいにどっちにも所属してるようなのもいるし。曖昧だよね。


横浜パシ彦>鍵の管理の仕方は今度教えるよ。


文図てぷら>なるほどwwwwwww



 いやいやいや、今のは別に笑いどころじゃないだろ。絶対真顔でキーボード打ってるだろお前。

 なんだろう、さっきからずっと違和感がある。

 小説の会話だったら、と頭のギアを入れ替えて直近のログを読み直してみる。

 まず、人物の描き分けが出来ていない。初登場のキャラがいきなり二名も追加されてるし、それ以前に、俺と參上部長がどのハンドルネームを使ってるかも読者にはわからないだろう。時事ネタと内輪ネタも多いし、説明ゼリフなのにあんまり説明してないし、小説のダイアログでやっちゃいけないことを全部やっちゃってしまっている気がする。



ファミチキ茶漬け>てゆうかテプラちゃん明日何限から行く? 普遍科目だったら被ってるかもしんないようちら。


文図てぷら>うーん(T_T) 今年はあまり授業を取ってなくて御一緒できないかもですm(_ _)m 部室にもあまり伺えないかも(核爆)


ファミチキ茶漬け>そっか。まー気が向いたら来なよ。文芸部の人たちも割とゆるい感じだし。紹介するから。


文図てぷら>はいー(*^^*)



 おい、いま核爆発が起きなかったか。

 いやいやそれよりも、ようやく違和感の正体がわかった。


 このチャットが始まって数時間、文図から話題をまったく振っていないのだ。

 俺たちの会話に対しても、「すごい」とか「へぇ」的な相槌でしか応えていない。自分よりも相手に喋らせることがキャバ嬢のトークテクニックだと聞いたことがある。高校の時、非オタクの女子に何となくアニメネタをふられて有頂天で喋ってた時みたいな反応、と例えたらわかりやすいだろうか。


 いきなり心を開け、と言うつもりはないが、なんだかこのまま、部室にもオンライン上にも文図は現れなくなってしまうのではないか。

 そんな不安がある。

 あのとき、テプラから吐き出したような彼女の言葉を、もっと読みたいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る