第3話 20180708 準文芸部員
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「それで、うちには誘ったのかい?」
ニコ生のオンラインビブリオバトルを聴きながら、參上部長が呟いた。
「というかそんなラノベみたいな出会い方をするラノベみたいな美少女が存在するのかい? 品田君の妄想の産物じゃなくて?」
「こんなにディテール細かく妄想出来たらそれを小説にしてますって」
「それもそうか。てっきり何かこう、叙述トリック的な何かで、実在しない人物を入部させるつもりなのかと思ってたよ」
どんだけ嘘つきだと思われてたんだ俺。
買い被りすぎ……って言うのかこの場合?
「4月に文芸部の入口までは来たそうなんですよ。でも入ろうか入るまいかドアの前をうろうろしているうちに……」
「あぁ……なるほど。大人しい文学少女にはきついかもね」
參上部長は納得したように言う。
本当に、その光景が目に浮かぶようだ。
うちの大学のサークルは大小様々、活動不明のものまで合わせると約160が存在し、公認されたサークルは正門そばのサークル会館(通称:サ館)に部室を持っている。
3階建ての、えっと、良く言えば非常にアンティークな建物。築年数はよくわからないが、廊下の壁に学生運動の時のビラが貼り付けられたままだったりするので、最低でもそのくらい古いはず。絵の具とシンナと何かよくわからないものが入り混じった匂い。常に薄暗く、壁は落書きだらけで、昼となく夜となく常に何かしらの楽器音が聴こえる。
「げんしけん」に出てきた中央大学のサ館も同じような感じだったので、たぶんどの大学でもこんな感じなんだろうけど、入学したての無口な文学少女がたった一人でこの建物に入って三階まで上るのは相当怖かっただろう。バイオハザードのロケハンとかに使えそうなんだもん本当に。
「で、次に、同じ3階のミス研の入口まで行ったそうなんですけど、ミス研ってあんな感じじゃないですか」
「ああ、あんな感じだもんな」
「なので踵を返して、今に至ると」
ちなみに昔はSF研もあったらしいが、今はなくなっている。
「やっぱり立地が悪いんですよ。1階に部室があればなー。せめて端っこ。外階段に近ければもっと部員が入るでしょうに」
「うちの大学、最近ちょこちょこ新しい施設建ててるのに、サ館だけはノータッチだよね。取り壊して当世風のを建てりゃあ良いんだ」
「どこかの部室だか壁だかに死体が埋められてて、それを見つけられたくないOBの何名かが反対してるとか」
「え、そんな噂が?」
「いえ今考えた妄想ですが」
「それだよ品田君。そういうところが君の信用を落としてるんだよ」
うーむ。そういうところか。
などと軽口を叩いているうちに、ニコ生ビブリオバトルも佳境に入ってきた。
「どれが良かった?」
「僕は1番目の人が良かったですね」
「発表者が女性だからじゃなくて?」
「いやいや何言ってんすか部長。そんなわけないじゃないですか部長」
ビブリオバトルとは、おすすめの本を5分間でプレゼンし合うイベントである。最近では全国の高校生による大会まで行われているらしいのだが、今聴いてるのはニコニコ生放送を利用したオンライン版。しかも紹介する本はラノベ限定。すごい時代になったものだ。
「こういう風にネット配信で何か出来たりもしますし、もうサークルも全部オンラインで良いのかもしれませんね。俺たちだって……」
「いやいや、形としての文芸部は大事だよ品田君」
俺の言葉を遮って、珍しく強気に參上部長は断言した。
「小説が書ける人はちゃんと文芸部に入部した方が良いんだ。そりゃそうだよ。きちんとした部室があるからこそ、我々も空き時間に使用させてもらえるわけだし」
「まぁ、それは確かに」
「そして、文芸部に入れなかった、小説が書けない人間の受け皿として、この準文芸部はあるんだ。君を誘った時もそうだっただろう?」
マイクの向こうの參上先輩は微笑んだ。
いや、顔は見えないから、微笑んだように感じただけだが。
「それで彼女、文図君だっけ? 彼女にここの場所は教えたんだよね?」
「ええ。たぶんそろそろログインすると思うんですけど……」
もう夜の10時だし、寝ちゃったのかなぁ。
それとも、Discordの設定に戸惑っているとか?
しまった。LINEのアドレスを先に聞いて置くべきだったかも。いきなり連絡先を交換するよりはハードルが低いと思ったんだけどなぁ。
と、そのとき。
サーバに新たな入室者を知らせるメッセージが届く。
そして、
――初めまして! わたし文図てぷら! よろしくね!(*´ω`*)
「……」
「……」
ヘッドセットを持ってないからチャットだけの参加とは聞いてたけどさ。
ネット上では性格変わるタイプかー。そうかー。
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