第5話【耐性:アレウス飯】

「買ってきたものの…コイツは……」


 美味い飯を買って来いと言った魔王。ここでへそを曲げられても困ると急いで買って来たものの……。


「すぅ……すぅ……ん〜……」


 腹を出して、というか全てをさらけ出したまま熟睡している魔王。どうやら羞恥心と言うものは魔王には備わっていないらしい。


「おーい、飯買ってきたぞ。起きろ魔王!」


「後で食べるのじゃ〜……後……5年……」


 5年も経てばこの飯腐ってるわ!

 やはり魔王、年月のスケールも段違いである。



「ほら、起きろって!」


「ん〜……食べさせておくれ……」


 寝ているのか起きているのか、こちらの言葉に反応しながら口を開ける魔王。小さな口をこれでもかと開き、飯が入ってくるのを待っている。


「ったく!食べたら起きろよ!」



 しかしこのまま素直に食べさせるのは釈然としない。アレウスはイタズラ心に従い、実行に移す。あわよくば起きることを期待しながら。


「コレを、こうしてっと。よし、出来た」


 買って来たパンの中に、先程の残り飯を詰めていく。最後にスープに浸し、パンをふやけさせ味を染み込ませるのも忘れない。


「ほら、特製パンだぞっと!」


 大口を開けた魔王へ、勢い良くパンをねじ込んでいく。口にパンを突き立てられたその姿は、パンによって封印されたとも、窒息死させられたようにも見える。


「ムグ……あむあむ……ンク……コクン」


 寝そべった態勢で口に突き刺さったパンを器用に食べていく魔王。あくまで起きるつもりは無いらしい。

 先程は毒とまで言われたスープである。パンに詰めた程度で味が変わる訳はない。これで魔王は起きる筈……そう思っていたアレウスだが――


「ごちそうさまなのじゃ……すぅ……すぅ……」


 何事もなく食べ終わる魔王。そう、こんな姿でも魔王である。魔王とは、魔族という生物の頂点。一度味わった毒に対する耐性など、一瞬で付いてしまう。


「ぐっ……コイツ……人の飯に耐性付けやがった!」


 さながら【耐性:アレウス飯】といった所か。膨大なスキルを持つ魔王に、無駄なスキルが増えた瞬間である。



「やっぱ準備がいるか……もう良い。ひとまず魔王は復活したし、今日は寝よう……」



 ようやく訪れた希望が一筋縄ではいかないことに疲れ、とぼとぼと不貞寝を始めるアレウス。


 精神的な疲労も重なり、またたく間に眠りに付いてしまう。明日こそは、と心に誓いながら。





「ワシは美味い飯をお願いしたんじゃがのぅ……まぁ良い……ふぁ……お休みじゃ……」

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