第4話【魔王を起こせ!後編】

「はぁ、はぁ、くそ、これでも起きないか……」


 あれから、あの手この手を駆使し魔王を起こそうと試みたが、一向に起きる兆しはない。

 水責めは駄目だった。刺激を、と針で突いてみたが、刺された場所をポリポリかくだけの結果に終わってしまった。

 ならば火を、と思い近付けて見たが、寝言で「はぁ〜……気持ちいいのぅ……」と言われる始末。流石魔王、あらゆる耐性が桁違いである。


「やっぱ魔法が通じるようにしないと駄目か……」


 魔王の魔法障壁。コレを、破るには簡単な手段では駄目だろう。色々と準備が必要となる。


「……取り敢えず飯にするか」


 既に外は暗く、準備をするには不都合な時間帯だ。ようやく魔王を見つけた嬉しさから、今日一日何も食っていない。


「腹が減ってると言い考えも浮かばないしな」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 オッサン一人の飯である。適当にありあわせの材料を鍋にぶち込み煮込んでいく。味付けも適当だ。食えればそれで良い。


 復讐のみを考えていたオッサン――アレウスである。食事など今まで適当に済ませてきた。無論これからもそのつもりである。


「よっと、出来た出来た。んじゃいただきます」


 形容しがたい匂いと色をしている謎スープである。しかしアレウスは意にも介さず食っていく。


「ん〜……今日のはまぁまぁか?」


 そうして食い終わる直前、フト思いつく。


「あ、コイツも腹減ってんじゃないか? ……食わせてやるか」


 眠り続けている魔王の口元へ、スープを近づけていく。大口を開けて寝ている魔王は、特に抵抗もせずそのまま口にする。


「お、食った食った。やっぱり腹減ってたのか」


 そうして次の一口を食べさせようとした瞬間――


「まっず!なんじゃこれー!不味いのじゃー!!」


 盛大に噴き出す魔王。あまりの不味さにか、涙をポロポロ流しながら咳き込んでいる。


「ワ、ワシが何をしたと言うんじゃ……。勇者共からくらった毒より酷かったぞ……。この世の物とは思えん代物じゃったぞ……」


「そ、そこまで言う事無いだろう?今日のは美味く出来た方だぞ」


「あれで美味く出来たのなら、お主の料理は人を殺せるじゃろうよ……」


 せっかく好意で食べさせた飯なのに、散々な言われようである。ともあれ、魔王が起きたのでアレウスからすれば結果オーライでもあったが。


「と、とにかく起きてくれて助かった……。さぁ、復讐を始めよう!」


「じゃから断ると言っとろう……。そんなに復讐したいならお主だけでやれば良いじゃろ」


 にべもない返事である。どうにかこの魔王にやる気を出してもらわないと、俺の復讐が頓挫してしまう。


「そんな事より、のうお主……」


 魔王が何かを訝しむような、ジト目でこっちを見てくる。


「いたいけな幼女のワシをこんな姿でベッドに寝させ、あまつさえ毒を盛るとは……お主、幼女趣味かえ?それも無理矢理寄りの……」


「だ、誰が幼女趣味だ!裸なのは元からだろう!というか毒とか言うな!飯だ飯!」


「ふん……どうだかの。犯罪者はだいたいそう言うんじゃ……」


 ようやく起きたと思えば人を犯罪者呼ばわりする魔王。流石魔王、邪悪の象徴である。


「ふわ〜あ、おいお主よ、なんぞ美味い飯を買ってこい。ワシはそれまでもう一度寝る」


「お、おいまで寝るな!寝たらまたお前起きな――」


 言うやいなや、またも寝息を立てだす魔王。しかし起こす手立ては見つかった。何か釈然としないものはあるが……。


 そうしてアレウスは飯を買いに出る。これから行う魔王の復讐劇を考えながら……。

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