第3話【魔王を起こせ!前編】
ところで今俺が居るのは封印された魔王を隠した洞窟だ。この場所は先代国王とその側近、それから勇者達しかその存在を知らず、極秘に隠されてきた。
俺は元国王の側近に魔法をかけ、遂にこの場所の情報を知ることが出来た。そもそも側近共に会うことすら難しく、随分と時間がかかってしまったが……。
勇者共は自分から切り捨てたくせに、俺の事を敵前逃亡した臆病者だと言いふらしていた。お陰で俺は城に近づく事も出来ず、じっと機会を待つ事しか出来なかった……。
そしてようやく訪れた機会。魔王の居場所を知り、封印を解いたまでは良かったんだが……。
「すぴ〜……すぴ〜……zzz……」
当の本人はこうして眠りこけている。封印された復讐よりも二度寝いや、三度寝を優先して……。
これでは俺の計画が台無しである。ここまで来たんだ、もう後戻りは出来ない……!
とりあえずは、こいつを連れてここを脱出しなければ。まだ封印を解いたことはバレてないだろうが奴等が来ても厄介だ。
「さて、ひとまずここから連れ出すか……。人の目に触れないようにしないとな」
この魔王、想像していた姿とは異なり、見た目にはただの幼女だ。しかも封印されていたせいか、スッポンポンである。もう一度言おう、全裸である。
良い歳したおっさんが意識の無い全裸の幼女をコソコソ連れ出すとか、完全に事件である。どう取り繕っても言い訳は出来ない。しかも俺はマイナス方向に有名だ。
「ひとまず認識阻害の魔法は必須だな。後はサッサと立ち去れるよう、速度も上げておくか」
残念ながら自由に転移出来るような魔法は無い。せいぜい空を飛んでいく位だが、そんな事をしても目立つだけだ。
俺は自分と魔王に魔法をかけ、足早に退散することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、どうしたもんか……」
無事誰にも見られることなく隠れ家まで帰って来れたが、相変わらず魔王は呑気に寝たままである。
「まずは起きてもらわないと何も出来ないな」
魔王は薄い胸を上下させながら、スヤスヤと眠りについている。
俺は再び電流魔法を唱えていく。今度は足からいこうかな……。
傍目に見れば、全裸の幼女に下からイタズラをするという、非常まずい絵面何だが、コイツは魔王である。その為何の問題もない。……無いはずだ。
「うおっ!」
魔王に触れようとした瞬間、俺は見えない障壁に弾き飛ばされた。コ、コイツ……魔法障壁を張ってやがる!?そこまでして寝たいのかよ!?
大抵の障壁は今の俺には何の問題もない。しかしコイツは腐っても魔王。適当に唱えた呪文では触れることすら出来なかった。
「そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ……」
魔法障壁は文字通り魔法にのみ有効である。つまり物理的なものに対しては何の意味もなさない。
俺は黙って部屋の隅にある手桶に水を張る。そしてそのまま魔王に向けてぶち撒けた。ベッドが水浸しになるが、仕方あるまい。
激しい水音と共に、手桶の水が魔王に襲いかかる。流石の魔王でもこれなら起きるだろう。そう思っていた――
「うそ、だろ……」
――そこには、水浸しになりながらもそのまま眠りに続ける魔王がいた……。
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