第1話 壁(37p)

「あっ! 良いですね! コレ……少し酸っぱいですけど、面白いな。そう言えば! 確かレモン風味のカヌレってありますよね!」

 どうやら気に入って貰えた様で、私はほっとして自分のカヌレを口に入れた。

 カヌレの甘い味と搾りたてのレモンの酸味が堪らない。

 実は私はカヌレと言うお菓子がそれ程好きでは無い。

 試しにレモンを絞って垂らしてみたら何故だか食べられて、だから、カヌレはずっとこうして食べていたのだ。

 カヌレが口の中から消えると、私はカップを再び手に取り、紅茶を啜った。

 温かい紅茶。

 気持ちが静かに落ち着いて来る。

 私はカップを眺めた。

 そして、目を見開いた。

「先生、コレって……このカップって、ウェッジウッドですか? しかも、アンティーク? いけません! こんな高価なカップで!」

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