第1話 壁(23p)

「吉永様、大丈夫ですか? ごめんなさい。泣かせるつもりは無かったんですが……どうしよう、困ったな」

 壁の向こうから手がヌッと出て来た。

 その手には、白いハンカチが有った。

「使って下さい」

 その声に、私は、有り難う御座いますと返事をすると、ハンカチを受け取り、涙を拭った。

 そして、私は目の前の壁をジッと見詰めて、「あっ……あの、今西さん先生……ですよね?」と言った。

 確か、名札には、今西心と書いて有った。

「あっ、自己紹介が遅れました。今西心(いまにししん)です。よろしくお願い致します」

「よっ……よろしくお願いします。あのっ、私」

 どうしよう。

 よろしくお願いしますと言ったものの、何をどう話して良いか分からない。

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