第1話 壁(21p)

 私はそう言って席を立とうとしたが、「それで?」先生のその一言で、動きを止めた。

「それで、どのようなお悩みなのですか? 詳しくお聞かせ下さい。目に異常は見られませんでしたが、吉永様は目に、ご不快を感じていらっしゃる。その訳を、詳しくお話し下さい。困っていらっしゃるんですよね? 目の事で」

 私は再び椅子に座ると、先生を、いいや、目の前の壁を見た。

 壁だ。

 壁が見える。

 私を悩ませ、苦しめる壁が目の前に見える。

「どうぞお話し下さい。そうでなければ、わたくしどもとしましては、どうにも出来ません。何故、当院に……今西眼科医院別館にいらしたんです? 特別な理由が無い限りは、患者様はこちら迄は足を運びません。吉永様、お話し下さい。貴方が抱える目の症状を! もし、語るのがお嫌でしたら、当院別館の事はお忘れ下さい。

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