第1話 壁(18p)

 ああっ……本当にだめだ。壁が濃い。

 彼の顔が見えにくい。


 私と彼の間には濃い霧の様な壁が有る。


 少なくとも、今、私には、壁が有る様に見える。

 それが物理的な物では無い事は分かっている。

 彼の手は壁をすり抜け、指で私の瞼をグイッと広げ、私の目を診ている。

 壁越しにぼんやりと彼の存在が、大変に見えにくいが、見えてもいる。


 でも、壁は有るのだ。


 この人は、私が壁の事を話したらどういう反応をするだろうか?

 精神科へ行く様に進めるか?

 私が色々考えているうちに、彼は私の目を診終わった様で、手を壁の向うに引っ込めた。


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