第1話 壁(16p)

「大丈夫ですか?」

 澄んだ、響き渡るような声が耳に入った。

 ゆっくり目を開け、その声のする方を見ると、年齢は三十代前半位か、痩せ気味だが、整った顔をした白衣の男が心配そうな顔をして私を見ていた。

「すみません。眩しくて」

 私がそう言うと、彼は頭を下げて「それは、すみません。どうぞ、こちらにお掛け下さい」と椅子を示して言った。

 私は進められた椅子に腰掛ける。

 椅子は白衣の男と向かいどうしになる様に置かれているので、彼の顔を間近に見る事が出来る、が、ダメだ。

 段々、彼の顔がぼやけて見えて来た。

 今日はもう限界の様だ。

 沢山、人を見て、少し疲れているのかも知れない。

 私はせめて白衣にぶら下がっている彼の名札だけでも確認した。

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