04
目を開くとそこは見知らぬ天井だった。
なんていうありきたりな表現は今回の僕には適していなかった。
そこが病院であると知っていたからだ。
なぜなら、僕は生と死をつなぐ世界の夢を見ていた訳で、はっきりと覚えている。
しかし、なんとも不気味な夢だった。
かわいい女の子が出てこなかったら、非常にむなしい夢である。
薄い暗闇にただただ立ち尽くすだけの夢。
ただ、あの夢を見たおかげなのかはわからないがやっぱり今も冷静だった。
きっと、あの夢を見ていなかったら、きっと見知らぬ天井と自分の寝ているベッドを見て、ひどく取り乱していたに違いない。
何が起こってるんだ?って……。
そんなことよりも今は一体
あれから、どれぐらい時間がたったんだろうか?
そう思い、周りを見渡してみると驚いて体が飛び跳ねてしまった。
さっきまでものすごく冷静でいたはずの心臓が急に大きな鼓動を打ち始めた。
なぜなら、僕の目の前には、そこにはいないはずの人がいたからだ。
そして、ひどく動揺しながらも声をかけずにはいられなかった。
「え、えっとあなたは?」
「…………………………」
その人は何も答えてはくれなかった。
聞こえなかったのだろうか?
確かに目は合っていたはずなのに……。
僕はこの世界ではこの人に会ったことがない。
そう、この世界では。
あの時は、暗くてあまりわからなかったが、髪は銀髪で、肌は雪のように白く、目は透き通った青い目をしているこの人は誰なんだろう?
もし、仮にここの看護師であれば急いで、医師を呼びに行くし、知り合いであれば、僕と会話をしようとするだろう。
しかし、目の前にいるその人は何もせず、ただ僕を見つめていた。
ちなみに、さっき周囲を見たときに自分の寝ているベッド以外にベッドがなかったので、ここが個室であることはわかっていた。
仕方がない。
僕はもう一度、その人に今度は丁寧に聞いてみることにした。
「あの……。あなたは一体どちら様ですか?」
「…………………………」
目の前にいる人は急にあたりを見渡し始めた。
僕もその人の視線を追ってあたりを見てみたが僕の発した言葉に対する返答の答えを見つけることができない。
目の前の人があたりを見渡し終わったのか僕の方を見て、ひどく焦燥した顔で一言答えた。
「……もしかして……。わたしのことが……。見えているんですか……?」
はて?
この人は何を言っているのだろうか?
見えるも何も頭からつま先までしっかり見えているし、なんなら夢に出てきた女の子とそっくりだ。
「……え? そりゃ、もちろん目の前にいるんだから見えると思うけど……」
確かに交通事故には遭ったが、失明はしていないし、脳も正常だと思う。
本当に彼女はなんなのだろうか?
夢で見たり、見えてるんですか?と聞いてみたり、今までの記憶を掘り返してみても、彼女を見た記憶は夢以外では全くなかった。
「……ほんとに――。ほんとーうに見えてるんですか?」
「え? うん」
「それはおかしいです。ちょっと自分のほっぺをつねってみてください。夢だと痛くないらしいですよ」
……僕はさすがにどこかの小説の主人公みたいに夢と現実の区別もつかないほどバカ人間ではない。
ただ、さすがにやらないと何も進まないような気がしたので仕方なくやってみることにした。
もちろん、もう結果はわかってはいるが……。
「うん。痛い」
その言葉を聞いた彼女は膝から崩れ落ちベッドで寝ていた僕の視線から消えた。
「……とりあえず、やってみることにした。わたしはコオロギになる。コオロギになる。コオロギになる。コオロギになる。コオロギになる。コオ―なる。……なる。……な。コ――なる――」
「あのー、大丈夫?」
僕は声をかける。
独り言をぶつぶつ言っている彼女に。
そして、彼女はふと立ち上がり、ぶつぶつ言いながら、窓の方へ向かい窓にぶつかり、痛いといいながら盛大に後ろへ倒れた。
一体、何がしたいんだろうか?
この人は?
もはや意味不明でしかない。
とりあえず、僕は足が折れているせいなのかギプスで固定されて思うように動かない足をなんとか動かし彼女のそばへと行った。
「あの……。一旦落ち着いて。とりあえず、そこの椅子に座って」
そういうと彼女は素直に従い、うなだれながらも椅子に座った。
ちょうど、のどが少し渇いていたので冷蔵庫の中を見てみると、水といくつか食べ物が入っていたので、その中のシュークリームを彼女にあげることにした。
「よかったら、どうぞ」
「……ありがとう……ございます」
彼女は一通り、シュークリームのパッケージを見渡した後、袋を開けて一口かじった。
僕はそれを横目で見ながら、なんとか動く手を使って、ペットボトルのキャップを開け、水を飲む。
「……おいしい」
彼女はさっきまでの表情とはうって変わって満面の笑みでそれを食べた。
しかし、二口、三口と食べたあたりで、またさっきのうなだれた時の表情に戻った。
「コオロギ……」
「えっと……。さっきから、そのコオロギって何?」
さっきからまともに会話ができていないから今度も無視されるだろうと思ったが、彼女は僕の方に顔を向け答えた。
「……わたし……君の守護霊なんです……。一年ほど前から……」
普通であれば何を言ってるんだ?とか面白い冗談だなとか言うところではあるのだが、彼女の真剣なまなざしとあの夢のせいでそういうことを言う気にはならなかった。
「えっと……、その守護霊っていうのはあの守ってくれる霊のこと?」
「……はい。……そうです。わたしは天界で生まれ育ち一年前に天界から天使見習いとして地上で和名井 茂塗の守護霊として修行をしてくるように言われました。でも、守護霊は人間に存在がわかられてはいけません。絶対に破ってはいけないルールなんです」
「もし、そのルールを破ったら?」
「自分がもっともなりたくないと想像しているものになってしまいます」
「それがコオロギ?」
「……はい。半年前にわたしが守護霊としてようやく少し慣れてきた頃に事件は起こりました。――コオロギビュンビュン事件です」
なんだ?その変な事件名は。
「――確か、あれは台所にいました。君の妹が台所でなにやら黒い物体とにらめっこしていたんです。そのとき君は小説を読んでいましたが、わたしはあの動く黒い物体が気になって仕方がなかったんです。もぞもぞ、もぞもぞ、動いてなんだあれは?って感じでした。しばらく、じっと観察してたら、あろうことか見えないわたしと目が合ってしまったんです。あれは、恐怖でした。恐怖で体が動かなかったんです。だって、誰にも見えないんですよ。わたしのこと。天使見習い同士だって、地上では見えないんです。なのに、あれはわたしを見たんです。そして、あろう事かわたしにめがけてとんできたんです。ほんとに恐怖です。恐怖で思わずひっくり返りました。目が合うだけでも怖いのに飛んでくるなんて……。なのに、あろうことか君はそいつを『小説の邪魔すんな』その一言で握りつぶしてしまったんです。そのときはそれで終わったんですが、多分一生忘れないと思います。なんかこう……、本能的にムリみたいな感じなんです。だから、嫌いで絶対になりたくないんです」
確かに半年前にそんな出来事があった気がする。
伏線が回収されて興奮していたときに本の目の前を黒い物体が通り過ぎたから、むかついてやってしまったやつか。
でもあれは確か……。
「それって、ゴキブリじゃなかった?」
「ごきぶり? あの黒い物体はゴキブリっていうんですか?」
「……うん。確かあのときの黒い物体はゴキブリだったと思う」
「……そうなんですか。最初、君の妹がコオロギだって言っていたんでコオロギだと思ってました」
まぁ、少し、似てはいるが黒いからと一緒くたにされてはなんか少しかわいそうな気もする。
しかし、半年前の僕と一花しか知らないはずのエピソードを知っているということはやはり守護霊なのか……。
まぁ、信じていないわけではなかったが……。
一言で言うならば半信半疑と言ったところか。
「でも、やっぱりわたしもまだまだですね。一年で結構慣れたと思ってたんですけど、なかなか名前とイメージが結びつきません。君の後ろで小説を一緒に読んで一生懸命勉強してたんですけど、やっぱり文字だけだとなかなかわかりづらくて……」
「まぁな。小説だと頭の中でイメージしないといけないから、そのイメージができないとなかなか――」
ん?
ちょっと待て。
さっき、彼女はなんて言った?
君の後ろで小説を読んで……?
「守護霊って基本は取り憑いている人の近くにいるってことだよな?」
「基本的にはそうですね。今の私には君の半径三メートル以内でしか行動できません」
「まさかとは思うが、風呂やトイレも一緒に入っていたのか?」
「はい。もちろんです。とは言っても、わたしは守護霊なのでトイレに行く必要もお風呂に入る必要もないので、あくまでも君を守るためにって感じですね。いつ敵に襲われるかわかりませんから」
「はぁ……」
……本当の敵はおまえじゃないのか?
恐ろしい。
トイレの時も風呂の時も隣にいたのかよ……。
下手したら、ストーカーよりもたち悪いじゃねぇか。
全く、たまったもんじゃない。
警察は守護霊も逮捕できるのか?
そういえば、ストーカーで思い出したけど、まさか今までずっと視線感じてたのってこいつが原因なんじゃ……。
そうなると、この世界は小説の中の世界で僕はその登場人物に過ぎない……というのがまさかの中二病設定になってしまうんだが……。
いやいや、それはない。
まだ、右に曲がろうとすると、なぜか左に曲がっていることがあるっていう理論が打ち砕かれてはいないからな。
大丈夫だ。
僕は、中二病なんかじゃない。
……まだ……。
なんか自信が……。
隣に座っているこいつはシュークリームがおいしかったのかまんざらでもない顔してるし……。
「ところでさ、さっきから見えるだの見えないだのっていう話してたけど、僕以外の人には見えていないってことなのか?」
「もちろん。見えてませんよ。だから、会話とかは二人っきりの時、以外はしない方がいいでしょうね。はたからみると君が一人で会話してる寂しい人になってしまうんで」
「なるほど。それは気をつけないとほんとに大変なことになるな」
そんなとこ一花に見られたら絶対、頭に後遺症がとか言い出すだろうな……。
「あっ、大事なことを聞き忘れてた。そういえば、名前はなんて言うんだ?」
「わたしのですか?」
「うん。名前」
「わたしの名前は――」
そこで病室の扉が開く音が聞こえたので、病室の入り口の方へ目を向けると、一花がいた。
僕と目のあった一花は
「お兄ちゃん、目、覚ましたんだ」
と言いながら、こっちへと歩いてきた。
「おう。心配かけたな」
僕はかろうじて擦り傷と打撲だけで済んだであろう左手を上げて答えた。
「べつに心配なんかしてないし」
僕から目線をそらして一花は言った。
「そうか……」
え?
心配してないのか……。
なんか、ちょっとショックというかなんというか……。
ま、別にいいけどな。
おまえに心配されてもうれしくもなんともねーよ。
「ところで事故から何日たったかわかるか?」
先ほどあまりの衝撃的な出来事があったせいで大切なことをすっかり忘れていたのである。
「事故からもう三日たってるよ」
「そうか。もう三日もたってるのか……」
「昨日までお父さんとお母さんもいたんだけどね。医師から『明日にでも目を覚ますでしょう』って言葉聞いた瞬間二人とも仕事に戻ったよ」
「そっか。まぁ、仕事が忙しいんじゃしょうがないな」
そうなのか。
久しぶりに会えると思っていたが、なかなか忙しいんだな。
まぁ、孤児院の運営をいくつもやってるから忙しいのも仕方ないのかもな。
「まぁね。――それよりもお兄ちゃん。――その人誰?」
そう言って、一花は指をさした。
銀髪でどこか儚げで、僕以外には誰にも見えないと答えた彼女に向かって。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
誰も喋らない。
僕は見えないと言っていたのに見えてしまっている状況に混乱して何を喋ればいいのかわからなかった。
おそらく、彼女の焦っている顔を見る限り、僕と同じような状況に陥っているのだろう。
一花はただただ、どちらかが口を開くのを待っていた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
しかし、誰も喋らない。
しばらくの沈黙が続いた後、しびれを切らしたのだろう。
一花が切り出す。
「あの――お兄ちゃん――その人は?」
僕は彼女の方を見て心に訴えかけることにした。
”どうなってるんだ? 僕以外にも見えてるじゃないか”
すると、彼女の方も僕を見つめてきて、こう伝えている様な感じがした。
”そんな……ことって……どうすればいいんでしょう……”
あいつは全く役に立ちそうにないな……。
さっきもコオロギがどうとか騒いでたし……。
……どうするか……。
一体どうやってこの状況を切り抜けるか……。
「わたし、君のお兄さんの守護霊なんです」
そう言って、彼女は急に立ち上がった。
おい、なんだと。
今のは”正直に言いましょう”だったのか?
完全に意思疎通はできていない様だった。
守護霊とは言っても所詮そんなものである。
「しゅ、守護霊……? お兄ちゃん……。私、電波の人はちょっと……」
一花は怪訝な顔をする。
ですよねー。
でも、だからと言って、そんな視線を僕に向けられても困る。
僕も完全に把握したわけじゃないからな。
「その感じだと信じてはいないようですね」
そりゃ、そうだろ。
――わたし、守護霊なんです。
――そうなんですね。
なんていう世の中だったら、とっくにこの世界は崩壊している気がする。
「わかりました。じゃあ、実際に信じてもらうために、今から君のお兄さんの体に入りこみます」
「……入りこむ?」
一花は怪訝な顔をしながらも固唾をのんで見ていた。
すると、彼女はすーっと僕の体の中に消え、またすーっと僕の体から出た。
一花はもちろん、僕自身もあまりの衝撃に言葉を発することができない。
「どうですか? 少しは信じてもらえたでしょうか?」
「え? どういうこと? 何かのドッキリ?」
「ドッキリじゃありません!」
彼女は必死に訴えるように言った。
まぁ、一花の反応は至極当然だと思う。
僕も一花の立場ならそう答えるだろう。
「なぁ、他にもできることないのか?」
僕は彼女に助け舟を出す気持ちで言った。
さすがにこのままじゃ、僕まで変人扱いされてしまう。
入院が延長させられるのは本当に勘弁してほしい。
『はい、脳の検査しますねー』
絶対、嫌だ。
少しだけ彼女は考える素振りを見せ、
「じゃあ、これはどうでしょう?」
と言って、僕の中にまたすーっと消えた。
はっきりいって、何も感じないとはいえ、この状況は違和感しかない。
そんなことを考えていたが、急に自分の腕が上がり、一花を抱き寄せる。
「きゃあ!」
一花はしばらく僕の腕の中で静かにしていたが、僕の腕をどかして、顔を赤くした。
「な、なにしてるの! お兄ちゃん!」
「い、いや僕にも何がなんだか……」
「い、妹にそんなことやるなんて最低!」
「ちょ、ちょっと待て。僕じゃない。いや、僕なんだけどさ」
本当に何が何だかわからなかった。
誰が好きでこんな妹を抱き寄せるなんていう苦行を行うのか……。
すっーと、僕の体の中から出てきて彼女は言った。
「どうでしょう? 今、お兄さんの体をわたしが動かしてみたのですが」
は?
動かした?
いや、待て待て。
確かに、動かされたのはわかった。
でも、信じたくない。
それを信じてしまうと小説の中の世界という理論が……。
この時、僕はただただ恥ずかしさのあまり俯いてしまった。
もちろん、一花のことではなく、自分自身がまさかの中二病だったということに……。
「…………。信じれるかと言われればまだ信じれない気持ちの方が強いけど、でも確かにお兄ちゃんがいきなりそんなことするわけないもんね……」
そう言った一花の顔はひどく困惑しているようにも見える。
「じゃあ、とりあえずは信じてもらえたってことでいいですか?」
「うん……。一応。ところで、あなたの……、あなたの名前は?」
彼女の正体をもうちょっと探ろうと考えているのか一花は訊ねた。
いや、尋ねた。
「わたしの名前はユラミエルといいます」
「へぇー。なんか天使っぽい名前だね」
「はい。わたし、天使見習いとして守護霊やらせてもらってるので!」
「……そうなんだ。じゃあ、ユラちゃんだね」
「ユラちゃん……?」
「あれ、嫌だった?」
「いえ、そういう風に呼ばれるのは初めてだったので。でも、嫌じゃないです。むしろ嬉しいぐらいです」
「よかった。そういえば、お兄ちゃんはユラちゃんのことなんて呼んでるの?」
「いや、実は僕もさっき知ったんだ。名前。じゃあ、僕はユラって呼ぶことにするよ」
時のいたずらにもてあそばれたせいでさっきやっと名前を知ったのである。
まぁ、引っ張った割には何もなくて、読者に怒られそうだが……。
って、もうそういう考えはやめよう。
本気で病院送りになってしまう。
もう病院にいるけど。
「はい。わたしもお二人のことはこれから茂塗さん、一花さんってお呼びしますね」
「うん。でも、なんで私の名前知ってるの? お兄ちゃんから聞いたとか?」
「だって、わたし守護霊ですよ。一年前からのお二人のことだったら、何でも知ってます。例えば、半年前にゴキブリを茂塗さんが手で握りつぶしたこととか。……ゴキ……ブリ……はぁ……」
ユラは椅子に座りまたうなだれた……。
おまけにまた意味不明な独り言をぶつぶつ言い始めている。
それを見た一花は僕の方に顔を向ける。
「お兄ちゃん、急にユラちゃん落ち込みだしたけど、どうしたの?」
「あぁ、実はな――」
そういって、さっきのことを一花に一通り説明する。
一花は聞いている最中、様々な表情を浮かべながらも真剣に聞いていた。
「そっかぁ……。せっかく出会ったんだし、なんとかしてあげたいね……」
「そうだな……。ユラ、それってなんとかならないのか?」
そう言って、僕はユラの方へ視線を向けた。
出会って、数日?しかたっていないが、一年前から一緒にいたことを考えると少し情がわいたのかもしれない。
できることなら協力してあげたいと思っていた。
もしかすると、ただただかわいい女の子を守りたいという下心丸見えな話かもしれないが……。
そのときは僕にも僕の気持ちがわからなかった。
すると、ユラは僕の言葉に気づいたのかこちらに視線を向け、
「……わたしにも今はまだわかりません」
と言った。
「ん? ……今は、というのは?」
「おそらく、数日中にわたしは天界裁判に出頭することになると思います」
「……天界裁判?」
天界と呼ばれるところにも裁判所みたいなものがあるのだろうか?
あの、有罪、無罪を決めて有罪の場合懲役何年とか下すああいうもののことだろうか?
「はい。そこで経緯などを説明して、無罪になれば守護霊を続けることができます。ちなみに罪状は人間に視認されるようになってしまったことと、茂塗さんを死の危険にさらしてしまったことになると思います」
「死の危険って……。あれは、僕が勝手にやったことなのにか?」
「はい、それでもわたしは守護霊なので茂塗さんを守る義務があります」
「……そういうものなのか……」
どうやら、守護霊というのは対象者が勝手に行ったことに対しても責任を負わなければならないらしい。
かなりシビアな話だ。
これからは自分の一つ一つの行動も考えなければならないのかもしれない。
しかし、はっきり言って理解できないことだらけだった。
守護霊――天使見習い――天界裁判。
それになぜ、僕は突然その守護霊というものが見えるようになったのだろうか?
というより、一花にも見えているということは、ユラ自身になにか変化があったということなのだろうか?
そして、ユラは椅子から立ち上がった。
「わたし、一度今から天界に行きます。いろいろ調べたいことや報告しなきゃいけないことがあるので。茂塗さんも病院にいる間は無茶しないでしょうし」
なんか病院から出れば全く信用できないみたいな言い方をされてしまった。
何度も言うが僕はおとなしい小説人間なのである。
「――わかった。しかし天界ってそんなに簡単に行けるものなのか?」
「そうですねー。天使や天使見習いであれば簡単に行けます。わたしは地上では茂塗さんの半径三メートルでしか行動できませんが、天界では自由に行動できますし、もちろんいつでも天界に行けます。それではちょっと行ってきます」
そう言うと、ユラはまぶしい光を数秒放ち、消えた。
「なんか、すごかったね」
「あぁ……」
「あ、そういえば……」
そう言い時計を見つめた一花は、
「わたしも今日は家にお兄ちゃんがいないから隣のおばさんのところでご飯食べることになっているから、早く帰らないと!」
そう言って、一花は僕に軽く手を振って、病室を後にした。
そして、一花が言ってくれたのか、入れ替わりで看護師が入ってきて、検査や食事などを行ったあと、僕はテーブルに置いてあった一花が用意してくれたであろう小説を手に取り読み始めたが、あまり小説の内容が頭に入ってこなかった。
守護霊か……。
小説の中だけの世界だと思っていたが、実際にあるんだな……。
そんなことばかりただただ考えていた。
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