03

 突然、目が覚めた。


 正確に言うと、急に自分の意識を認識できるようになったという表現が正しいのだろうか?

 あたりを見渡してみたが、何もない。

 そう、本当に何もなかった。


 薄暗い闇だけが、地平線の遙か向こうまで広がっているように感じた。


 足下が冷たい。


 足のほうに視線を向けると、足首から下がすっぽりと水に浸かっているような感じがした。

 下の方を見渡すとおそらくだが、薄暗い闇と同様に地平線の遙か向こうまで、水は広がっている。

 そんな状況にただただ立ち尽くしてると、静寂のせいなのかバシャ。バシャ。と水をかき分ける音が聞こえた。

 音のする方に目をこらすと、さきほどまで何も見えなかった場所に影のようなものが、動いているのが見えた。


 あれは、何だろうか?

 影だけを直感的に捉えると、象のような形に見える。

 しかも、その後ろには、キリンのようなものも見える。

 さらには人っぽい影も見えた。

 その影を目で追っていくと前に向かって進んでいるのがわかる。


 「しょうがない……。あの影について行ってみるか」


 しかし、ふと思った。


 なぜ、自分はこんなにも冷静なんだ?

 普通だったら、こんな状況、気が気でないはずなのに、心はものすごく落ち着いている。


 まぁ、いい。

 そんなことより今は前に進もう。

 そう考え足を前に踏み出し、歩き始めると後ろから声がした。


 「そっちに行っちゃだめです」


 急いで声のした方を振り返るとさっき確認した時には何もなかったはずなのに、今はその場所に可憐でどこか儚げな女の子が一人立っている。


 「……………………」


 「君が死んでしまうと困ります。今すぐ元の世界に帰ってください」


 彼女は必死な顔で僕に訴えかけてきた。


 「帰るったってどうやって? それにここはどこなんだ?」


 「ここは生と死をつなぐ世界。君が進もうとしているのは死の世界です。こっちに進めば帰れます」


 「生と死をつなぐ……?」


 確かに心あたりがある。

 記憶がある。


 確か、僕は一人の少年を救うために道路に身を投げ出し車に轢かれた。

 しかし、それ以降のことは覚えていない。


 「そうです。生死を彷徨っているものは必ずこの世界にやってきます」


 「じゃあ、僕もそういうことなのか?」


 「そうです。私がぎりぎりのところで身体強化をしたので、なんとかこの世界にとどまることができましたが、本当だったら君は即死です」


 「身体強化? 即死……? 一体、どういう――」


 「すいません。せっかくなのでいろいろお話したかったのですがどうやら、もう時間みたいです。私はこの世界の住民ではないのであまり長く居続けられません」


 「待ってくれ。せめて名前だけでも――」


 彼女は微笑んでそこですーっと消えた。

 一体、何だったんだろうか?


 この場所といい、先ほどの彼女といいひどく冷静ではあったが、純粋に意味がわからない。

 ただ、もう一人の僕が彼女に従えと言ったような気がしたので、とりあえず本能的に彼女に従うことにした。


 ふと反射的に、さっきの動く影の方を見たが、その影はもう見えなくなっていた。

 とりあえず、さっき彼女が立っていた方へと歩き始めた。

 歩き始めて少し立つと、目の前が急にまぶしくなり、僕は思わず目を閉じた。

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