第3話 二度目の出会い②


「麦茶でいいですか?」


「は、はい」


 食器棚に並べられたコップの中から透明なグラスを二つ。

 いびつな氷を避け、大きめのものを三つそれぞれに入れる。カランという音とともにコップを滑った氷は綺麗に重ならない。

 勢いよく注がれた麦茶に驚いたのか、氷がパキパキと音を漏らす。


 ……あの少女は一体誰なのだろう。それにこの部屋にどうやって入ったんだ。


「どうぞ」


 いつの間にかソファからテーブルへ移っていた少女は、一度会釈をしてからグラスに口をつけた。


 どうして不法侵入者をもてなしているのか自分でもわからないが、このおどおどした姿を見るとどうも何か事情があるように思える。

 家出だろうか。しかし家出少女というのは響きに問題がある。

 親戚にこんな子いたかな。小学校の時の同級生とか?

 考えれば考えるほどわからなくなる……


 ふと、少女と目が合った。


 お互い沈黙に耐えられないのは同じだったようで少女は何か言いたげにしている。


 もじもじしながらも少女は口を開いた。


「あの。私のこと、覚えてますか?」


 いきなり痛いところを突かれてしまった。


「その、実は全く思い出せないんだ。ごめん……」


「そうですよね」


 少女は寂しそうに言う。


「仕方ないですよ。そんな仲良かったわけでもないですし。それに……」


 少女は一瞬口ごもる。


「それに?」


 催促したようになってしまったが、正直気になる。

 どんな言葉が出るのか僕はいくつも想像した。やっぱり家出なのか、本当に空き巣だったのか、はたまた小学校の同級生か。


 しかし、少女の言葉は、僕の想像を遥かに越えた場所にあった。




「私、もう死んでるんです」




 彼女は、幽霊だった。

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