第2話 鮮やかな羽の揚羽蝶さん

自分の卵の殻を破った小鳥は初めて空というものを見た。

小鳥はまんまるの目を何度も瞬かせた。


「とってもいい眺めだなぁ。壁の外側にはこんなに素敵な世界が広がっていたんだね。」


小鳥を包み込む大きな、大きな淡い青色の光の海は、なんだって許してくれそうだ。


「僕が今まで生きていた世界って、狭かったんだなぁ。」


卵の中で少しだけ感じていた閉塞感を思い出しながら、小鳥は目を落として呟いた。

すると小鳥の頭上から、上品な声が聞こえてきた。


「あら、初めてお見かけしますわ。御機嫌よう、純白の小鳥さん。」


誰だろう?小鳥は顔を上げ、首をきょろきょろと動かした。

声の正体は程なくして見つかった。

それは優雅に舞う一匹の蝶々だった。

小鳥は蝶々に返事を返した。


「こんにちはきれいな蝶々さん。」


それを聞いた蝶々は少しむっとして答えた。


「違いますわ。私は揚羽蝶ですのよ。ほかの蝶々たちと一緒にしないでくださるかしら。」


小鳥はふわふわの羽毛に首をうずめた。


「気を悪くさせちゃったのならごめんなさい、揚羽蝶さん。」


まったく失礼しちゃうわ。揚羽蝶はそう言いながら、小鳥の隣に舞い降りた。


「花たちはいつも私に言うのよ。揚羽蝶さんの羽は他の蝶々たちよりもずっと美しいって。」


揚羽蝶は黒に鮮やかに黄色が踊る羽を、自慢げに動かしてみせた。


「へぇ、そうなんだ。確かに揚羽蝶さんの羽は綺麗な色をしているよね!」


小鳥は感心した。

そして自分の飾り気のない羽根とを見比べた。


「僕の羽根もカラフルだったらなぁ。」


小鳥は苦笑いをこぼす。

揚羽蝶はさらに得意げになって続けた。


「そうね。真っ白な羽根よりも、私の羽のように色鮮やかな羽のほうがずっと魅力的だと思うわ。あなたもそう思うでしょう?」


「君のいうように、そうなのかもしれないなぁ。」


誇らしげな揚羽蝶をみて、

小鳥は色味のない自分の羽根が少し嫌いになった。

急に吹き抜けた風が、くすくすと笑う誰かの声を運んでくる。


「まぁ、私もう行かなくてはなりませんわ。花たちが私のことを待っておりますの。」


またお話ししましょう、そう言って

揚羽蝶は笑い声に乗って飛んで行った。

小鳥は少しだけ胸のあたりが苦しくなった。




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