純白な小鳥が羽ばたく

羽衣 まそら

第1話 始まりの歌

彼が最初に居た場所は、狭くて白い卵の中だった。

狭いとはいっても身体は不自由無く動かせたから、彼は別段狭いとは感じていなかった。

彼は物事に執着しない性格だった。

だから彼は壁の外に出なくてもいいかもしれないと考えていた。

ある日のあの歌声が聞こえてくるまでは。


暖かい春の日のことだった。

彼は優しい春風の心地良さに任せて眠っていた。

突然に近くで鳥の羽音が聞こえた。びっくりした彼は目を開けた。


「なんだよもう。うるさいなぁ。」


どうやら卵の隣に鳥が止まったらしい。

彼はさして気に留めず、また眠ろうと目を閉じた。

すると、その鳥の歌声が自分だけの閉鎖空間を飛び越えて聞こえてきた。


「なんて素敵な歌声なんだ。」


それは温かい木漏れ日の降り注ぐ森に注がれた小川のせせらぎのような美しい歌声だった。

彼はしずかに目を開き、音を立てないようにそっと息をのんでその歌声に聴き入った。



しばらくして羽音が聞こえて、歌声は聞こえなくなった。


「あぁ、もう行ってしまったのか。」


すっかり魅了された彼は、あの歌声が聴きたくて仕方がなくなっていた。


「僕はもっと近くで、もっとずっとあの歌声を聴いていたい!」


彼は彼の心がこんなにも何かに占領されたのは初めてのことだった。

なにかにじれったくなって、彼は全身をばたつかせた。

そこで初めて自分の背に一対の真っ白な翼が生えていることに気がついた。

彼は純白な小鳥だったのだ。

小鳥はまんまるの黒い瞳を輝かせて言った。


「そうか、僕は鳥だったのか。それなら僕もあの鳥と同じように飛んだり、歌ったりできるのかもしれない!」


小鳥は純白の翼を大きく広げる。

まだ見ぬ未来への希望の輝きをまとって。

心臓が、早く、強く、脈打つのを感じた。

それは衝動だった。

ここから飛び出そう!あの鳥に会いに行こう!


「僕ならできる!」


そんな産声を上げて、小鳥は自分を囲む壁を突き破った。

それは新しい“生命”(じぶん)の始まりの歌だった。

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