第12話 静かな凱旋

 朝一番にソト村を出たあたし達は、陽が落ちるよりも早く街の門を見ることができた。

 門番と短い挨拶を交わし、ガーナを先頭に門をくぐっていく。

 すると、小綺麗な服を着た見知らぬ男性が声をかけて来た。


「やっぱり生きて帰って来やがったか。地味な凱旋で申し訳ないが、ひとまず賛辞を贈らせても。俺の見る目もなかなか曇ってねぇな」


 賛辞を贈ると言いながら、自画自賛する男をいぶかしげに見つめる。

 うさん臭い雰囲気が見え隠れする顔に、あたしは無視を決め込もうと思ったのだが……。


「……ん?」


 彼の頬にある刺青に……どこか見覚えがあるような気がして、訊ねるように確認した。


「もしかして……ラスナード?」

「おいおい。他に誰があんたらの帰りを待ってくれるよ?」


 細かい髭を剃り、髪もひとまとめにしたラスナードは野盗から男娼に転職したようだ。


「へぇ。ボロボロのマントよりもずっと似合うじゃないか」


「冗談ならやめてくれ。似合わないのは承知の上だ。ついさっきまで自分の店に顔を出していてね。無理やり着せられたのさ」


「店?」


 無意識に首を傾げ、頭に浮かんだ疑問が口から零れる。

 ラスナードはそんなあたしを見ると口元を歪め――。


「娼館だよ」


 ――と、いやらしい笑みを浮かべて告げた。


「なっ!」


 思わず顔が熱くなる。

 だが、こみ上げてくる恥ずかしさよりも早く、あたしの喉を心配事がせりあがった。


「ま、まさかあんた! あたしの妹もその『店』にいたりはしないでしょうねっ!」


「あ? そりゃもちろん。ご依頼の通り『安全な場所まで連れて行って面倒を見る』には俺の所有する店が一番だったからな」


「っ――!」


 開いた口が、どうにもふさがらない。

 今! あたしの妹は! リズは! 娼館にいる!

 悪びれる様子もなく語るラスナードを見て、自分の人選が完全に間違っていたと気付いた。


「…………連れて行きなさい」


「ん?」


「早くあたしをっ! リズのいる所まで連れて行きなさいって言ってんのっ!」


 大声をあげた途端、周囲の視線があたしに刺さる。

 ラスナードも意表を衝かれたらしく、笑顔がやや困り顔へと変わった。

 彼の表情の変化に、ちょっとだけ胸がすっとする。

 そうして、あたしが小さな爽快感を得ている最中。


「ちなみに、馬を返す場所もそこでいいのか?」


 ガーナが訊ねる、ラスナードはゆっくりと首を振ってから口を開いた。


「いや、馬はここでいい。奴らに任せてくれ」

「奴ら?」


 ラスナードの指差す方向に目をやると、そこには全身を覆いかぶせるローブを纏った三人組が立っていた。

 あまりにあやしい風貌に、思わずぎょっとして目を見開く。

 けど、あたしはすぐ、自分の傍にも似たような格好のゴブリンがいることを思い出した。


 それからあたし達は馬を降り、ローブを纏った三人組へ各々馬を渡す。


「あ、待って」


 あたしだけ、馬具に吊るしていた水瓶を取るのに少し手間取ったが、問題になるほど時間はかからなかった。


 馬の受け渡しが無事に終わると、ラスナードが機嫌良さげに笑う。

 大方、馬が無傷で戻って来たことを喜んでいるんだろう。


「それで、あたしの妹はどこの娼館にいるの? 変なことしてたら承知しないわよ」


 対して、こちらが眉を吊り上げて訊ねると、彼は芝居がかった動きで頭を下げた。


「当然、丁重にもてなしておりますよ。さ、こちらへ」


 くるりと踊るように踵を返すラスナードの背中は、暗に『ついてこい』と言っている。

 だが、切羽詰まった状況だった時と比べると、彼の背中は十割増しでうさん臭く見えた。


「……」

「行かないのか?」


 不思議そうなガーナの声に、細い溜息を漏らして返す。


「……今更ながら、奴の信用ならなさを実感してるの。別に、足がすくんだとかじゃないわ」


 それから、剣の柄に手を置き、ラスナードの後を追うために一歩を踏み出した。

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