第11話 『朝日の中で、眼差しの先にある小さな幸福を』
ミカ様から褒賞を受け取った後、あたし達は協会の隅で眠り……。
朝日が昇ると、あたしは一旦、一人で自分の家へと戻った。
覚悟していたこととは言え、自分の住んでいた家が黒焦げになった様を見るのはきついものがある。
でも、新しい生活が始まると思えば……まだ、前を向ける気がした。
大丈夫よ、シズ。リズが生きていただけでも丸儲けなのに、その上大都会で新生活が始まるんだから……という具合にだ。
それに……。
「良かった……流石に無事だった」
焼け落ちた家の床下を掘り、小さな水瓶を取り出し、あたしは心底安堵する。
念のためフタを開けて中身を確かめると、引っ越し資金にと貯めておいた全財産がまるまる残っていた。
「これがあるなら、聖都へ行っても大丈夫ね」
そして、あたしは水瓶の土を払い、ガーナ達の元へと戻る。
「ごめん。待たせたわね」
そう声をかけると、なにやらガーナとミカ様が話している最中だった。
「もしかして、お邪魔でしたか?」
「いえ、ちょうど話し終わったところです」
にこりと微笑みかけるミカ様に「そうですか?」と返す。
直後、ガーナからも「もう用事は済んだのか?」と反応があった。
「ええ。おかげさまでね」
「そうか」
それから、あたしは落っことさないようにと馬具に水瓶を吊るして、ミカ様へと向き直る。
「ミカ様、ありがとうございました」
「お礼を言うのは私の方ですよ。シズ、聖都へ行っても元気でね」
「はいっ! 今まで、お世話になりましたっ!」
頭を下げると、ミカ様はあたしの髪を優しく撫でる。
ずいぶんと懐かしい感覚に、胸の奥がすごくこそばゆくなった。
けど、ミカ様の手はふとした拍子にあたしを離れる。
顔をあげてみると、彼女の目線はゼトへと向けられていた。
「ゼト……あなたにもお礼を言わせてください。ありがとう、そして、あなたの望みが叶う日が来ることを心から祈っています」
ぺこりとおじぎをみせるミカ様に、ゼトはフードをかぶったまま頷く。
すると、ミカ様はそれを返礼と受け取れたらしく、やわらかに微笑んだ。
「じゃあ、行こうか」
ガーナの一声に呼応し、あたし達は馬にまたがる。
「では……『朝日の中で、眼差しの先にある小さな幸福を』」
「……『摘み取らぬように、夕焼けに染まる光の中でいつかあなたに聞かせよう』」
ミカ様とガーナが、女神と交わす別れの挨拶の定型を口にすると、あたし達は馬を走らせた。
◇
街道を馬で走る最中、遅れてやって来た戻し手達の傍を通り過ぎる瞬間には、なんとも言えない優越感があった。
「あんた達! ソト村から来たのかっ? 堕女神はっ?」
「この顔を見て、二度聞く必要はないわよねっ?」
戻し手の一人に対するあたしの返答を気に入ったのか、ゼトの肩が笑いで揺れるのが見えた。
ぽかんと口を開ける戻し手を置いて、あたし達は街を目指す。
あとはただ、街で一人あたしを待つリズに『ただいま』と言えばいい。
そんなことを考えながら馬の手綱を握っていた。
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