18話

「ん、んん〜」


僕は眼を覚ますと、枕元に手を伸ばす。


「めがねめがね…あった」


メガネをかけるついでに時計に眼をやると、7時過ぎ。

なんてことはない、いつも通りの時間だ。


「んん〜」


小鳥のさえずりを聞きながら一つ伸びをして


ーー喉乾いたな。


神主さんが、台所に向かおうと部屋のドアを開けてーー


「……」


小動物と目があった。

ふさふさもふもふの金色の尻尾に、同じくもふふさの

三角形の耳。

体も同じ色の毛皮につつまれて。

つまりそこにいたのは、そうーー


「もふもふ!!」


ではなく一匹の狐でした。

その姿を捉えた瞬間、消える神主さんの体。

そして気づいた時には狐は神主さんの腕の中にいました。

ここまでコンマ1秒。

狐も何が起こったのかわからず眼をパチパチさせています。


「もふもふ〜、もふもふじゃないか!なんでこんなところにいるんだ?ダメじゃないか、勝手に入ってきちゃ〜」


そんなことを言いながら、ずっともふもふしている神主さん。


もふもふ、もふもふ、ふさふさ、


「んん〜、やっぱりいいな〜」


頬をスリスリしたりしちゃってます。

狐の方も、大人しくスリスリされてます。


「ん?」


と、ここで何かに気づいた様子の神主さん。

抱きしめていた狐を一旦引き離し、脇の下に手を入れる感じで目の前に持ってくると、じっくり観察するように全身を見つめてーー


「もしかして、紺?」

「……」


見つめ合う神主さんと狐。


「な訳ないよな…」

「こーん」

「紺なのか!?」


いえ、ただ鳴いただけですね。


「そうかそうか、やっぱり紺なのか…どうして急に戻ったんだ?」

「私がどうかしたんですか?」


と、ドアの後ろから姿を見せたのはパジャマ姿の少女。

その頭とお尻には、神主さんの手の中の狐と同じ、金色もふもふの狐耳と尻尾が飛び出しています。


「ん?おはよう、紺。いや、紺が狐に戻ったみたいでーー」


尻尾をもふもふしていた神主さんの手が止まりました。


「紺っ!?」

「ふえっ!?こ、紺ですけど…?」

「え?あれ?」


目の前の狐と狐少女を交互に見つめる神主さん。


「…じゃあこの子は?」

「え?」


紺は目前に差し出された、神主さんの手の中の狐を見つめてーー


「…おとうさん!!?」

「お父さん!?」

「こんこん!」


こんな言葉を肯定するようにうなづく狐に、神主さんも信用したようで、


「お父さん…ということはこの子は…おじさん…」


スッ…っと狐を地面に下ろす神主さん。


「で、なんでここに?」


そして何事もなかったかのように紺に尋ねました。


「なんでですか?」


狐に尋ねる紺。

そのあと何度か狐の鳴き声で会話をしたあと、


「「娘が心配だったから見にきた」らしいです」

「なるほど、そして僕は初対面のお父さんをいきなりもふもふして…すみませんでしたぁ!」

「.わっ!?」

「こんっ!?」


突然土下座した神主さんに驚くもふもふ親子。


「ん?何ですか、お父さん?…いい人で安心した、ですって!」

「へ?」

「さっきのもふもふには愛がこもっていた、らしいですよ。…なかなか良かったらしいです」


通訳の紺の隣でうんうんとうなづくお父さん。


「はあ、それはどうも…」


ーーでもこの狐、中身はおっさん…いや、でももふもふはもふもふであって人じゃないから問題ない!そう、問題ない…


「よければもう一回してもいいらしーー」

「遠慮しときます」

「こんっ!?」


『がーん』って顔のお父さん。

でもすぐに持ち直したようで。


「それでは僕はそろそろおいとまします。朝早くから失礼しました。…娘をよろしくお願いします。…ですって」

「わかりました、お任せください!」


ぺこりとお互いにお辞儀をして、遠ざかっていくお父さん。

と、何かを思いついたように神主さん、


「あの…」

「こん?」


足を止めてお父さんが立ち止まります。


「その…よかったんなら、娘さんを、もふもふ…して…」


ギロッ


お父さんの顔が一瞬で忿怒の鬼の形相に変わりました。

牙を向いて低く唸ってます。


「すみませんでしたぁ!」

「チッ!」


ーー狐でも舌打ち、できるんだ…


「娘に手をだしたら殺す、ですって」

「はい…」


苦笑いしかできない神主さんでした。







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