15話

「神主さ〜ん」


今日もいい天気の境内を少女が駆けて行きます。

それに合わせて、巫女さん装束の赤袴からはみ出したもふもふの狐しっぽがゆらゆら。


「もう、神主さんどこいっちゃったんだろ。…時々都合よくいなくなるんですよね〜」


そんなことを言いながら、立ち止まってキョロキョロと辺りを見回します。


「…こっちかな?」


小さく首をを傾げると、神社の端の方へと歩き出しました。



「…こんなとこにいないですよね」


紺は草をかき分けて進みます。

飛び石も敷いてあるし、どうやら元はちゃんとした庭だったようですが、放置された結果…


「まるで小さな林みたいです…かき分けたらそこは異世界でしたみたいな…」


そんなことになってしまいました。

いないことはなんとなくわかってるけど、惰性でそのまま進んでいきます。

そしてまた草をかき分けた時、急に視界がひらけて、


「これは……」


そこにあったのはーー


「女神の泉ですっ!?」


なんかではなくただの池。

式にするとx2乗/6.25+y2乗/2.25=1

(たて3メートル横5メートルほどの楕円形)

深さは1メートルほど。

少し緑がかった水を通して、底に沈んだ数枚の1円玉が鈍い光をはなっています。


「な〜んだ、ただの池ですか〜」


紺は、池に近づくと覗き込みました。


「とくにお魚さんも…にゃっ!?」


目の前を横切った黒い影に驚いた紺が、狐らしからぬ鳴き声で鳴きました。


「にゃにゃにゃっ!?」


→紺は猫になった!

てれれってってって〜♪


「これはもしや…女神の使徒…」


ではないですね。はい。


「なんだ、鯉さんですか〜。でもおっきいです〜」


目で鯉を黄金に気づいたのか、鯉が紺の目の前で浮き上がってきて、水面で口をパクパクし始めました。


「これはまた可愛い女子がきたのぉ」


パクパク、パクパク


「初めまして、紺って言います」

「こんな日が来ようとは、長生きはするもんじゃのぉ」


パクパク、パクパク


「へぇ〜、いった…ええええ〜!?」


紺は飛び上がると一気に10メートルほどあとずさりました。


「こ、鯉が、鯉がしゃべ、しゃべ、ええええ!?


これには鯉さんも微妙な表情(…な気がする)


「いや、そんな驚かんでもいいじゃろうに…」


パクパク、パクパク


「…不気味です」

「やめてっ!?遠くからそんなこと言われたらわし傷つく!」


涙を流す鯉さん。

水の中だから全くわからないけど。

それでも危険はないと思ったのか、紺は恐る恐る近づいて


「…なんで鯉さんは話せるようになったんですか?」

「…孤独死しとぉなくて意地でも生きとったらいつのまにか妖怪になっとったわ。ははっ!!」

「ハハハッ…」

「乾いた笑いとともに後ずさるでない!」

「いや、だって妖怪…こわ…」

「わしは無害じゃ!!…お主こそその姿はどうしたのだ?元は狐だろう?」

「分かるんですか!?」

「もちろんよ。あんまり年の功を舐めちゃあいけんで?」

「そうですか〜。実はかくかくしかじかで…」


紺はかいつまんで成り行きを説明しました。


「まったく、うらやましいかぎりじゃのぉ…わしもできることなら地面を歩いてみたかったのぉ」


夢見る少女のような表情の鯉さん(おじいさん)


ーー地面をを歩くって…


紺の脳内に浮かんだのは、鯉の本体に足だけが生えたやつ。


「いや、ちょっと気持ち悪…なんでもないですっ!キットカッコイイデスヨォ〜」

「…お主今失礼なことを考えなかったか?」

「そんなこと絶対ないですよ〜」


ーーはっ!もっとリアルなやつにすればいいのか!


次に浮かんだのは…人魚姫(♂)

しかも上半身ゴリゴリのおじいさんのやつ。


「うん、やっぱりやめたほうがいいと思います!」

「そうかのぉ…」

「それがいいですよ〜」


鯉さん残念そう。

と、その時背後から音がして、


「お、こんなとこにいたのか」

「神主さん!」


神主さんがやってきました。


「神主さん、この鯉さん面白いんですよ!」

「面白いじゃと…」

「ほう…?…なんだ、長老じゃないですか!」


神主さんの顔が明るくなりました。


「いや〜久し振りですね〜」

「まったく、ずっと待っておったのに来んから、すっかり老いぼれてしまったわい…こんな狭いところで1人どんなに寂しかったことか…」


よよよ…、と涙を流す長老。(水中だからわかりませんが)


「長老はそんなに前から神主さんと知り合いなんですか?」

「ほうよ。子供の頃から知っとるわい。あのころは泣き虫でた大変じゃったのう」


長老、ちょっと皮肉っぽいです。


「すぐピーピー泣いて大変じゃったわい」


これに神主さんもカチンときたようで。


「長老だってロクでもなかったじゃないですか。女好きで。魚顔のくせに」

「おぉぉぉい!生まれつきじゃい!それを言うんじゃないわい!」


言い合う2人の間で、わたわたする紺。


「どうしよう…」


「ほら紺、どこぞの絵本の狐みたいにしっぽ垂らしてみ?ちょろい鯉がかかるから」

「ふえ!?」


急に振られて固まる紺。


「はっ!そんなものにかかるわしではな…い……」


長老の目がもふもふしっぽに吸い寄せられて


「おい、お前、これは…」


長老が神主さんを招き寄せると


「良いな」

「良いでしょう」


2人の声が重なりました。


ーーなんか、勝手に仲直りしてくれたような…?…でも、


「絶対に触らせてあげませんからね!!」

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