14話
「う~ん」
廊下では、一人の少女が悩んでいた。
腕を組んで見つめる先には1枚のドア。
「するべきか…しないべきか…」
ハムレット並みに深刻な顔で悩んでいるのは――
「神主さんの部屋、掃除した方がいいのかな?」
どうやら、生きるべきか死ぬべきかかかっていたのは神主さんのほうだったようです。
今日は神主さん、町のほうで用事があるらしく、朝早く神社を出ていきました。
「ん~」
少し考えた後、結論が出ました。
「してあげよう!」
あ、神主さん死にました。はい。
「まあ、紺ちゃんは、優しい、ですからね~」
うんうん、と小さくつぶやきながらドアを開けると…
バタンっ…
ドアを閉じました。
「んと、いまのは夢のはずだからきっと次開けたら変わってるはず…」
もう一回ドアを開けて、
「…なわけないですよね~…はぁ。」
紺が見たのは、部屋の中にあふれる、数え切れんばかりのもふもふの山でした。
「まったく!女の子の部屋ですか!?」
机の上にはもふもふの狐さん。
部屋の隅にはうずたかく積まれたもふもふマウンテン。
ベッドの枕元にはどこで集めてきたのか、拳2こ分ぐらいの小さめのぬいぐるみがいっぱい。
フクロウさんにペンギンさん、ねこちゃんにトラさんに…また狐さん。
「狐、好きなんですね…あ、これ!」
紺が手に取ったのは、依然彼女がプレゼントした狐さんでした。(9話当たりを参照)
「ちゃんと取っておいてくれたんですね~」
紺は神主さんのベッドにあお向けに寝ると、目前にぬいぐるみを持ってきて、うれしそうです。
しばらくそうやってひとりにやにやした後、上半身だけ起こして再び部屋の観察を始めました。
「ん~、でもそんなに散らかってるわけじゃないみたいですね~…ぬいぐるみ以外は。」
というかそもそも物自体が少ないようで。
ベッドと狐さんの乗った小机のほかには箪笥が――
「…箪笥の上にまであるんですね…」
紺は、手に持っていた狐さんを元に戻すと立ち上がって、
「掃除する必要はなさそうですね~」
部屋を出ようとしたとき――
「!?」
部屋の外から足音が聞こえてきました。
「お~い、帰ったぞ~!あれ?紺?いないのか~?」
――まずいです!神主さんが帰ってきちゃいました!
「えと、えと…どこかに隠れないと…」
あせあせ、あせあせ
――神主さんがいないうちに勝手に神主さんの部屋に入ったなんて知られたら…
「あっ!!」
――ベッドの下!…そうと決まればさっそく滑り込んで――
身をかがめた瞬間なにかと目が合いました。
「ひゃっ…んん(もごもご)」
飛び出しそうになった悲鳴を、口を手で覆ってなんとか押しとどめました。
――く、クマさんのぬいぐるみですか…びっくりしましたよ…おっきいです!!それに顔が影になって余計不気味ですよ!!…どれだけもってるんですか!?もう!!
「紺どこ行ったのかなぁ…」
――それどころじゃありませんでした!!早く隠れないと……えいっ!
☆
ガチャっ…
「はぁ、つかれた~」
神主さんが部屋に入ってきました。
「いや~、やっぱり疲れた時はもふもふに…癒し…てもら…おうかな…」
そんなことを言いながら、ベッドに腰掛けるも、何かに気づいたようで。
――なんか、見たことないものがあるというか…しっぽが生えてるというか…
もふもふマウンテンから、黄金色のが1本生えて、ゆらゆらしてます。
――気づかれてないと思ってるのかな…ん~……もうちょっと見守ろうか。なんかかわいいし。
ゆらゆら、ゆらゆら
しばらく不思議な光景が続いて…
――そろそろ開放してあげようかな
「んー、紺どこ行ったんだろうなー」
そう言うとベッドから立ち上がりました。
☆
がさっ
もふもふマウンテンが崩れ、中からもふもふ本体が出てきました。
「ふ~あぶなかったです~」
そう言って背伸びをすると、部屋を出て――
「ただいま~」
「ふえ?」
声につられて、紺がそっちを向くと――
ベッドの下、クマさんの奥の暗がりに浮かび上がる男の顔が…
「きゃあぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!!」
神社中に悲鳴が響き渡りました。
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