13話
うららか日和の昼下がり。
神社の境内では、一人の少女が竹箒を手に掃除をしていた。
その頭にはもふもふの三角形の耳。
その色は、日差しを受けて明るい黄金色。
白衣から延びる華奢な腕が竹箒を動かすのと一緒に、赤袴から飛び出したもふもふもふのしっぽが左右に揺れる。
ざっ、ざっ、ざっ……
しばらくの間、あたりには少女が箒を動かす音だけが響いて…
「ん~、飽きました!」
唐突にそういうと、両手を上げてそののまま伸びをしました。
「やっぱり人が来ないんですもんね…」
手を下ろして再び胸の前で両手で箒を握ると小さなため息。
「なんか最近掃除ばっかりしてるような……まぁ、それはそのために来たんだからいいんですけど……神主さんと2人きりではあるけどそんな雰囲気にはならないし…」
2度目のため息。
「なんかいい暇つぶしないかな…」
右手の人差し指を顎に当て目を閉じるとしばし熟考。
「何かいいこと……あ、思いつきましたよ!…でも神主さんがいないと…」
そんなことをつぶやく紺の前、少し離れたところを狩衣姿の男が通り過ぎていきました。
「あ!神主さん!ちょっとこっち来てください~」
「ん?どうした紺?悪いけど今はちょっと手が離せな…」
「しっぽ触らせてあげようかな~なんて—」
「今行く!」
神主さんは両手で抱えていた段ボールを放り出すと、小走りでこっちに向かってきました。
その時はこの中から何かが壊れる気がしましたが…まあいっか。
「で、で?しっぽ触らせてくれるの!?」
「はいど~ぞ」
と、神主さんの前に差し出されたのは…
「…へ?」
「どうしたんですか?ほらほら~しっぽですよ~?」
「いや、だってこれ…」
箒でした。
「神主さんの大好きなしっぽですよ~、触らないんですか~?」
「いやまあ、似てるっちゃ似てるけど……紺、もしかして…」
神主さん、眼鏡をくいっと上げると、
「バカにしてる?」
「ふえっ!?し、してないですよっ!?えと、その……はっ!!」
あたりをきょろきょろと見まわしていた紺の目がある一点で止まって――
さっき使った、バケツにかかったぞうきんを手に取ると、箒の先っぽにかけました。
「あ!これでどうですか!?似てません!?」
「うんにてるとおもうよー」
「めっちゃ棒読みじゃないですか!?うう~ごめんなさい…怒らないでください~」
「ん、別に怒ってはないけどね」
微笑む神主さん。
「よかったです…あ、触ってもいいですよ~」
神主さんの目の前で揺れるしっぽもどき(Mark-Ⅱ)
「わーいわーい(棒)」
わしわし、わしわし
「すっごくいいさわり心地だな~」
わしわし、わしわし
「ほら、紺も触っていいんだぞ?」
今度は紺の目の前で揺れるしっぽもどき(改二)。
わしわし、わしわし
「……箒ですね」
「うん、箒だよ?」
箒の先から滑り落ちるぞうきん。
「…じゃ、僕はそろそろ戻るから、頑張ってね」
「分かりました…はっ!」
「ん?」
紺の声にはっとして振り向く神主さん。
「もう一個思いつきましたよ!」
紺は魔法少女よろしく箒にまたがると、
「ほらほら、見てください~、しっぽが2つ~!今日から2尾の狐です~」
「おお~」
飛ぼうとしたのか、小さくぴょんぴょんするのに合わせてゆれるしっぽともどき。
「あ~!反応が薄いですよ~!もっとなんかないんですか~?」
「わ~すご~い!これはどっちが本物か見分けがつかないな~多分こっちが偽物のはずなんだけどな~」
「あっ!!そっちは本物ですよ~!!」
「ん、本物じゃないならもふもふしてもいいんじゃ…」
「ダメです~~~!!」
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