11話

都会から遠く離れた森の中、木漏れ日の下を一人の少女が駆けて行く。

その頭にはふさふさの狐耳、おしりにはもふもふのしっぽ。

少し立ち止まるとくんくんと小さく鼻をひくつかせて、


「ん……こっち…」


再び駆けだした。


   ☆


「ここ…かな?」


不安そうに少女が見上げた先には鳥居。

周りが緑に染まる中でそこだけが異彩を放っている。

少女は再びくんくんすると、


「うん、やっぱりこっち…」


ゆっくりと鳥居をくぐると一歩を踏み出した。


   ☆


「ひろい……」


少女はきょろきょろとあたりを見回しながら境内を歩く。

裸足の足元で砂が小さな音を立てた。


「でも、人がいない…」


心許なげな足取りで少女は進む。


「ん…あの人のにおい…!」


何かに気づいたような少女の顔がぱっと輝き、駆け出して——


どんっ!!


建物のところを曲がろうとしたところで何かにぶつかったその体が吹き飛ばされた。


「わっ!?いたっ!」

「ご、ごめんっ!!大丈夫かい?」


眼鏡の青年がしりもちをついた少女に手を差し伸べる。


「あ、ありがとうございまあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


差し出された手から相手の顔へと視線を上げた少女の顔が一瞬で真っ赤に染まりました。


「えっ!?な、なに!?」


いきなり顔を見て叫ばれて、神主さん困惑気味です。


「あ、あのっ、そのわたっ、わたっ、んんんんんん!!」


少女、完全にてんぱってます。


「だ、大丈夫かい?」

「ひゃいっ!」

「…ほら、立てる?」

「はい…」


今度こそちゃんと手を取ると、少女は立ち上がりました。

でもまだ顔は見れないようで、顔を真っ赤にしてうつむいています。

それでもちらちらと上目遣いで盗み見たりしたりして。


「で、君はどこから来たんだい?」

「あ、あの…」

「こんな山奥のことだし車で来れないこともないけど…」

「その…」

「ん?親御さんはどうした――」

「あの!私をここで雇ってください!」

「…?」


流れる沈黙。


「いやいやいや、それはまずいって!こんな女の子を…ってその前に話が見えないんだけど!?」

「だからこの間のことすごくかんしゃしてます!だから恩返ししたくてっ!なんでもしますからっ!だから雇って――」


手を握り締めて必死にお願いする少女。


「まったまった!まず、きみはだれ?」

「え?そんな…やっぱり私のことなんて覚えてくれてないですよね…」


落ち込む少女。

頭の上のふさふさの狐耳もしょんぼりしています。


「少し前助けてもらった狐なんですけど…覚えてないですよね…」

「ああ!」


ポンと手を打つ神主さん。


「おもいだしたぞ!ってぇぇぇぇ!?そんなの分かるわけないじゃないか!なんで狐が人間に!?」

「それはあなたのことがす……すごく感謝してるからですっ!!で、やとってくれるんですか!?」


恥ずかしさで真っ赤になった顔で詰め寄る少女。


「で、でも親御さんが心配してたり…」

「ちゃんと話はつけてきました。…もういいですよ。別に私なんていらないですよね…」


すごく悲しそうな顔をして、がっくりと肩を落として背を向けて歩き出す少女に、


「あっ!?ちょっ、ちょっと待って、そんなこと言ってな――」


その時神主さんの目が一点で止まって――


「君、そのしっぽって…」

「え?これですか?これはそのまだ私の力が足りなかったのか消えてくれなくて…」


振り向いた少女は恥ずかしそうに自分のおしりから生えているしっぽをを見つめます。


「合格だ!!」

「へ!?」

「君を雇うことにしたよ。」

「ほ、ほんとうですか!?」


少女の顔が一気に輝きました。


「ああ。今日からよろしくね。」

「は、はいっ!!」


   ☆


「んん…」


目を覚ました紺は目をこすりながら上半身を起こしました。

窓から差し込む灯りはまだ月明かりで。


――ん…なんで神主さんと出会った時の夢なんて見たんだろう?


「ああ…そういうことね」


横を向いた紺の視界に入ったのは、幸せそうな寝顔の神主さん。


――そういえば神主さんの部屋のエアコンが壊れたから一緒に寝てるんだったっけ。その匂いを嗅いで勝手に思い出してたってとこかな。


紺は自分の寝床を抜け出すと紺は、相変わらずぐっすりの神主さんに近寄りました。


――ほんと、あの時にこんな人だって気付いておけばよかったのですよ…


紺は自分のしっぽをなでながらそんなことを考えます。

と、唐突にしっぽを神主さんの眼前でフリフリして、


「ほーら、神主さんの大好きなもふもふですよ~」

「も…ふ…も…もふもふ!!」


ガバッ!!


「ひゃっ!?」


急に動いた神主さんを、紺が住んでのところで回避、神主さんの手が虚空を抱きしめました。


――な、なんで!?


壁際まであとずさり、ドキドキする胸を抑えながら、神主さんを見つめますが、さっきと変わらず安らかな寝息を立て寝ているようです。


――ほんとに、もう……


そのまま壁際で三角座りをすると紺は、自分のしっぽを抱きしめて、


――私のことをちゃんと見てくれるまでしっぽは触らせてあげないんだから……


さらに強くしっぽを抱きしめました。

















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