10話

とある昼下がり。

暖かい日差しの中を1人の少女が男の元へとかけて行く。


「神主さ〜ん!」


巫女装束の少女の頭には可愛らしいもふもふの耳、お尻にはもっふもふのきつねしっぽ。


「ん?どうした紺?」


不思議そうな顔で答えたのは神主衣装の男。


「暇ですか?…教えてほしいことがあるんですけど」

「…暇じゃないな」


見つめ合うこと数秒、神主さんが露骨に視線を逸らしました。


「…暇ですよね?」

「ん?僕は今この山の雄大な景色を見ながら普段の労働で疲れ切った心を癒して…」

「あっ、暇なんですね!わーいわーい」

「お、おい!?てかなんでそんなに力強いんだ?」

「神主さんと違って毎日労働してますから〜」

「…」



神主さんが引きずってこられたのは祓所。

要するにお祓いをするところだ。


「私にお祓いを教えてください〜」

「…知らない」

「嘘つかないでください!?腐っても神主さんでしょ!?」

「いや腐ってはないんだけど!?」

「あっ、じゃあお祓いのやり方も知ってますよね〜?」

「…忘れちゃったな〜てへぺろ☆」


「『ああこいつもうダメだ』みたいな顔で横向いて鼻で笑うのやめて!?」

「…なんで教えてくれないんですか?毎日掃除をして」

「ぐっ…」

「洗濯をして服をたたんで」

「がはっ…」

「ご飯も作ってあげてるのにそんなことも教えてくれないなんて…なんて器の小さい…」

「…」


標的、完全に沈黙。生体反応なし。


「…いや、でもそれならそれで、それなりの準備がいるし…」

「もし教えてくれたらもふもふー」

「是非やりましょう!いや、やらせてください紺さん!今すぐしましょう!!」

「……」


ーーこの人、ちょろいな…



「で、なんで紺は急にお祓いなんて?…山の知り合いで取り憑かれた奴がいたとか?」


そう紺に問いかけた神主さんの手には、お祓いの時によく見る木の棒に雷みたいな形の紙がついたやつ。


「まぁ、そんなとこですかね〜。で、どうやるんですか〜?」


バッサ、バッサ、バサバサッ


神主さんおもむろに手に持ったそれを紺の頭の上で 振りました。

その時うっすらとそれが輝きましたが、頭の上でのことなので紺は気づいていません。


「…はい、これであなたについていた悪いものは取れましたよ」

「…正気ですか?今時神主を語る詐欺師(いるかどうかは疑問だが)でももっとまともな演技をするんじゃ…」

「チッチッチ!」


紺の顔の前で人差し指を左右に振る気障な(全く似合ってない)仕草に紺の目つきがさらに険しくなってー


「肩、軽くなってないかい?」


神主さんがこんな肩を指差し。

紺はびっくりした表情で少し肩を回すとー


「え?…そういえばそんな気も…ごめんなさい…」

「まっ、そういうことーグフォっ!?」


調子に乗った神主さんの腹にめり込む拳。


「ぐっ…まあ、紺もやってみ?」

「はい…」


バサバサッ


「…できました〜」

「うん、よくできてたねー(棒)」

「…ほんとですか?」

「ほんとだよー」

「…」


ーー絶対できてないな。てかできるわけないじゃん!


「じゃ、わたしかは掃除に戻るんで、はい、これ」

「ん?今後持ってていいぞ?まだお祓いしてあげたい相手がいるんだろう?」

「いえ、もう済んだので」

「いやいや、そんなわけないだろ?」

「いえ、終わりました。」

「いやだってまだ誰にもしてなーー」

「しましたよ?」

「…」

「…」


見つめ合う2人の間を微妙な空気が流れる。


「えーと、つまりーー」


と、そのとき紺が尻尾を小さくふりふりしてーー


「もふもふ!」

「ああっ!?お祓いできてないです!!邪念がまだまだいっぱい取り憑いてるじゃないですか〜っ!!嘘つきましたね!?できてるって言ったのに〜〜!」

「ふっ、紺の小さな力じゃこいつを追い出すことはできんよ!こいつとは長い付き合いでもう体の一部のように癒着が進んで…」

「意味わかんないですから!!ちょっとは自粛することを覚えてくださいよぉ〜!!」















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