9話
食卓にて。
「おい、紺…」
「ん?なんですか?」
向かい合うように座っていた神主装束の男が正面の巫女さん衣装の少女に話しかける。
その間には、おいなりさんが山盛りになった皿。
そして神主さんは「あのなぁ…」といった表情で、
「お前…おいなりさんの皮だけ食べるなよ!」
「なんでですか?…これが一番おいしいじゃないですか〜」
もぐもぐ、ごっくん。
少女は口にくわえていたおいなりさんの皮を飲み込む。
「いや、それは分かる、大いに分かる。でもな…紺…おいなりさんってのは皮と中身を一緒に食べるものなんだよ!」
「へー、そうだったんですか〜」
もぐもぐ、ごっくん☆
「それに、この大量の中身誰が食べるんだ?」
神主さんは皿の端の中身の小山を指差す。
もぐもぐ、ごっくん☆
「…ちゃんと聞いてたか?」
もぐもぐ、ごっくん☆
「まあまあ、私が作ったんだしいいじゃないですか〜……はっ!!」
紺は「いいこと思いつきました!」と言う顔でポンと手を打つと、
「神主さんが食べてください〜♪」
そう言うと紺は神主さんの前の取り皿に次々と中身だけ載せていきます。
「は!?おい、ちょっとまて、皮のないおいなりさんなんて…なんて…なんだ?」
「ちらし寿司だと思って食べてください〜♪」
「あっ、なるほど…ってそうじゃない!自分でちゃんと処理しーはっ!?」
「ん?」
今度は神主さんが「いいこと思いついた!」と言う顔で、
「分かった、僕が食べてあげよう。」
「ほんとですか!?わ〜い、神主さん優しー」
「ただし、1個につき1もふもふな」
もぐもぐ、ごっくん…
「…嫌です♪」
「…じゃあこれはお前が食べろよ」
神主さんが手前の皿を紺の方へ押しやる。
「わわっ、待ってください!!でも…ぐぅ…」
「分かった、じゃあこれは僕が食べるから、今からもう1個追加につき1もふもふでどうだ?」
「むぅ……で、でも私のもふもふはそんなに安くないですよ!?」
「ふむ…じゃあもう1個追加で」
「…まだまだ、そんなんじゃたりないですよ?」
「もう1個」
「んん〜、ダメです〜!」
「じゃあもう3個追加で合計5個でどうだ?
「ううっ!?…それは…まだ…足りな…」
「10個!10個でどうだ!10個で1もふもふだっ!」
「いや…それは…でも…」
そんなこと言いながらも、目にはもうおいなりさんしか写ってません。
もぐもぐ、ごっくん☆
「んん〜、やっぱおいし〜!…はっ!!」
「今食べたな?てことは交渉成立ってことでいいんだな?」
「いや、ちょっと待って、今のは無意識というか…ノーカウントでっ!!」
「…ムリだな」
「ええ〜っ!?」
「もふもふっ!!」
「!?」
神主さんの手がもふもふしっぽに向かって伸びてーー
「えいっ!」
もふん
「やっt…ん?」
手には確かにもふもふの感触。
でもなんだか形が全然違うような…
「神主さん、どうですか?」
「…おおっ!?」
神主さんの手の中に、しっぽの代わりに握られていたのはーー
「これは…ぬいぐるみ!?」
小さな狐さんのぬいぐるみでした。
しっぽまで忠実に再現されてます。
「そうですよ〜。布が余ったので作ってみました!どうですか?もふもふでしょ〜?」
「うん、これは確かに…」
もふもふ、もふもふ…
「いいなぁ…」
「気に入ってもらえたならよかったです!…大切にしてくださいね?」
ニコッ
「…ああ、大切にするよ!」
「んふふ〜」
☆
「神主さん…いい加減どいてくれませんか?」
地面に横たわる神主さん。
「待て、紺…今動くと…中身が出る…いろんな意味で…」
「……」
「……うっ!」
「!?」
「…セーフ…」
「はーっ…なんか…すみません…」
「…いや、いいんだ…」
「……」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます